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□君の望み通りに
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キラの機嫌が悪くなって、それに困ったシンが俺に連絡を寄越す。

数回重ねてパターン化したそれが、今日も起きた。

これまでに嫌というほど足を進めたキラの執務室までの廊下を歩く。

ザフトを辞めてからも尚、こんなにもここに足を踏み入れることがあるだなんて思わなかった。

当然現役のザフトの人たちも俺の事は知っているから、大抵の場合挨拶される。

俺はそれに小さく会釈するので精一杯だ。

執務室の扉を開くと同時に、空気をつんざくようなキラの声が耳に響いた。

反射的に目を瞑ってから、うっすらと瞼を上げれば、憤慨した様子のキラに、辟易した様子のシン。

「もうこれ以上仕事増やさないでって言ってるでしょ!!」

「んなこと俺に言われても……」

あまりのキラの理不尽っぷりに、シンはなけなしの敬語すら捨てたようだった。

大変そうだなと思いつつ、キラに声をかける。

やはり気付いていなかったらしい。

キラは驚いたように顔を上げ、それから、シンを睨み付けた。

「何でいつもアスラン呼ぶわけ?」

「そりゃあ、キラさんがアスラン不足で死にそうとかいってうおぉうっ」

なにやら言いかけたシンに向かってシャーペンを投げつけるキラ。

いくらなんでもシャーペンはないだろう。

キラのことだから当たらないように狙いはしたのだろうが当然シンは普通にビビり、青ざめた表情で俺を見た。

「……後はお願いします」

そう言って逃げるように部屋を後にするシンを見送りながら苦笑する。

キラが不満気に唸るのが聞こえた。

「全く、あんまり部下を困らせてやるなよ」

「……だって、」

そうポツリと呟いて押し黙る。

流石にやりすぎな自覚はあるのか、さっきとは一転、視線をさ迷わせていた。

「で、さっきシンが言ってた事だけど」

「僕があんなこと言うわけないでしょ!!」

かと思えば立ち上がって否定される。

顔が真っ赤なのに自分では気付いていないのだろう。

単なる照れ隠しにしか見えないが、指摘したらすぐに部屋から放り出されてしまうだろうから黙っておいた。

「まぁ俺は、キラ不足で死にそうだったけど」

「……は、」

笑って言えば、キラはなんとも言えない微妙な顔をして椅子に座り直した。

あんまりな反応に少し傷付いたのは言うまでもない。

キラが動く様子がないので俺からキラに近付く。

後ろから抱きつけば仕事の邪魔だと一喝されてしまった。

だからといって離れる気はさらさらないが。

「キラ、こっち向いて」

「やだ」

「……何で今日そんなに冷たいんだよ」

「アスランこそ今日異様に気持ち悪いよ」

きっぱりとそう言われ、思わずため息をつく。

恋人に対してそれはないんじゃないか。

口に出して言ってみれば今更何を、と返された。

確かに、キラが毒舌なのは今に始まったことじゃないのだが。

「久しぶりに会ったのに嬉しいとか、ないわけ?」

聞けば、キラは苦い顔をしながら俺を振り返った。

「……嬉しいよ。嬉しいけど」

煮え切らない様子のキラに、何、と問い掛ける。

するとキラは、書類の山を顎で指して。

「これじゃ、喜んでもいられないの」

適当な性格してるくせに変なところが真面目なんだ、キラは。

嫌なら仕事を引き受けなければいいのに、と思うけど、そうはいかないことくらい、俺にだってわかってる。

キラは幾分か他人より優秀だから、彼にしか出来ないことも数多くあるのだろう。

けど、たまに凄く不安になる。

無理しすぎて、キラの何かが切れてしまうのではないかって。

崩れそうになる彼を、支えられるのはきっと俺しかいなかった。

シンもそう思っているからこそ、ギリギリになると俺を呼ぶのだろう。

あれはあれで優秀な奴だから。

「……キラ、三十分だけ休憩な」

「何勝手に決めて、んぅ」

叫ぶキラの唇を塞いだ。

俺が強引に引かなければ、休憩すらろくにしないのだろう。

もちろん休んでる暇などないと言ってしまえばそれまでなのだけれど。

軽いキスからだんだん深いものに変わっていく。

抱き締めた身体は、前より痩せた気がした。

「……ふぅ、ん」

「……っは」

唇を離せば、キラは少し潤んだ瞳で俺を見た。

「仕事、終わんなかったらアスランのせいにするからね」

声は刺々しいものの、そう言った彼の顔に浮かんでいたのは諦めたような笑みだった。














2011*03*10



 

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