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□呼吸さえも曖昧
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生きていると実感出来ていたのはいつのことだったろう。
その記憶すら、朧気で。
ただ無為に日々を過ごしていることが当たり前になっていた。
だからこそ。
彼が日々を一生懸命に生きているのが滑稽に思えた。
それと同時に妬ましくて、羨ましくて、それから、そんな彼に少しずつ興味を持っていった。
「バーン、練習に付き合ってくれないか」
サッカーは、私の好きなことのひとつだ。
強くなっていくのが分かる度、言い様のない高揚感を手にすることができた。
私の問い掛けに彼は、心底嫌そうな顔をして返す。
「あ?なんで俺が……他のやつに頼めよ」
そう言われて言葉に詰まる。
断られてしまえば引き下がるしかなかった。
彼でなければいけないという理由も特には見当たらない。
諦めようかと思ったが、その前にバーンがため息をついたのに顔を上げる。
「……んな顔すんなよ」
呟くように落とされたその言葉に首を傾げる。
自分では表情を変化させたつもりはなかったのだ。
ぺたぺたと頬に触れてみるが、それだけで変化が分かるわけもない。
バーンは私のそんな様子が面白かったらしく、私を見て吹き出した。
つい、ムカッと来てしまう。
睨むようにしてみれば、彼は更に笑い出した。訳がわからない。
何、と問えば、彼は、お前もそんな顔出来たんだな、と。
「……は?」
「今の顔、俺、好きだぜ」
「、」
にかりと笑ってそう言われ、私の中で何かが音を立てた。
それは何かが壊れた音なのか、それとも何かのスイッチが入った音なのか、はたまた他の何かなのか、正確にはわからないが。
唐突的な衝動が私の身体を支配した。
初めての事だ。止める術も分からずに、私は彼を引き寄せていた。
「な……ッ」
唇を合わせると、胸が暖かくなったような、そんな気がした。
これが幸福感というものなのだろうか。
……悪くは、ないな。
呆然とする彼に、私は慣れない笑みを浮かべる。
途端、彼の頬が紅潮するのがわかった。
可愛らしい反応に、満更でもない自分がいる。
「バーン、」
「な、ん」
再び唇を合わせる。
今度は正確な意思を持って。
こんなにも深い感情が溢れ出すのは久方ぶりだった。
それに、少なからず私も戸惑っていた。
(こうなった責任、とってもらうからな)
(意味わかんねぇ……!!)
タイトルはルネの青に溺れる鳥様より
2011*03*12