メイン5

□僕を油断させるのが得意な君
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ヒトの味覚というものは、なかなかどうして不思議なものである。

同じ生き物なのに美味しいと感じる基準は個々に違って。

みんながみんな、同じものを美味しいと感じるんならいいのにな、と、目の前でケーキを頬張るトウヤを見てそう思った。

見るからに甘そうなチョコレートケーキは見た目を裏切らない甘さであって、ぼくは二口でギブアップした。

甘いものが苦手になったのはいつからか。

凄く小さい頃は嬉々として食べていた記憶がなくもない。

けれども少なくともここ五年は、甘いものを避けている。というか単に食べれない。

あんまり食べると酔ったように気持ち悪くなるのだ。

トウヤは、甘いものが好きらしい。

出来ることなら、彼と美味しいと思うことを共有したいと思うけれど。

じい、とぼくがケーキを見つめていたのに気付いたのだろう。

トウヤは一口分ケーキをフォークに突き刺すと、ぼくの口元に差し出した。

「いる?」

「いや、いい」

「……そう?」

ぼくが欲しくて見ていたものと勘違いしていたらしいトウヤは首を傾げた。

それから、ぼくに差し出していたケーキを口に運ぶ。

美味しいのにな、と、そう思っていることは見ているだけで分かった。

トウヤはそこでぼくを見つめると、暫くして少し口角を上げた。

妙な悪戯を思い付いたのと同じ顔だ。

嫌な予感がしたぼくは、すぐさま彼から離れようとしたけれど、彼に腕を掴まれてしまい、それは出来なかった。

カチャリと、テーブルに置かれてフォークが小さく音をたてる。

トウヤが近づいてくると、心なしか甘い香りまで漂ってくるようだった。

「、やめろよ」

どう見ても甘ったるいままの唇を寄せられる。

逃げようと身を捩るも、彼がぼくに覆い被さってきて逃げ道はなくなった。

せめてもの抵抗で顔を目一杯反らしてみるけれど、そんなものは何の効果もなかったようで、気付いたら唇は触れ合っていた。

(甘、っ)

そう思って眉をひそめたのも束の間、油断していたところに舌を割り込まれる。

口腔を掻き回されると、口の中にチョコの甘さが広がった。

暫くすると淫靡な水音がぼくの耳に響いた。

くらくらする。

痺れるような気持ちよさと甘さがいっしょくたになって、胸焼けを起こしそうだった。

じんと、身体に響くようなキス。

気が付けば彼の服をしっかりと握り締めていた。

「ん、ふぁ」

高い声が我慢できなくなった辺りで漸く唇を離される。

「、美味しかった?」

にやりと笑ってそう言うトウヤに、どきりとしたのもまた事実、なのだけれど。


(……気持ち悪い……)
(!?嘘、ごめん!!)












タイトルは虚言症様より


2011*03*13


 

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