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□俺のわがままを許して
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※学パロ


怪我には気を付けろと、あれほど口を酸っぱくして常々言っているというのに。

「……」

苦笑いしながら視線を明後日の方向に向けるキラ。

俺の視線の先は彼の膝。

赤々とした血が痛々しく流れる様を見て溜め息をついた。

「キラ、とりあえずそこ座って」

ベッドの縁を指してそう言いながら、俺は救急箱を取り出す。

言われた通りにベッドに腰掛けてから、キラは小さく呟いた。

「……先生は?」

俺が治療しようとしているのに疑問を抱いたのだろう。

ついでに、俺に治療されるのが後ろめたいのだと思う。

しかし生憎保険医は外出中。

念のためと留守番代わりに保険係の俺がここにいるのだった。

「ほら、足出して」

「……」

「キラ?」

綿に消毒液を含ませながら言うも、キラは膝を両手で覆ってしまう。

一体なんなんだと彼を見れば、年甲斐もなく目に涙を浮かべていて、少し合点がいく。

そういえばキラは昔から、消毒の沁みるのが大嫌いだったっけ。

俺からしてみれは消毒以前の怪我の方がよっぽど痛いと思うのだが。

「キラ、」

咎めるように名前を呼べばキラは身体をびくつかせてからおずおずと手を退けた。

「……痛くしないでよ?」

「それは無理な相談だな」

「うにゃああ!?」

些か乱暴に綿を患部に押し当てれば、キラは面白い悲鳴を上げた。

ついつい吹き出してしまうも彼からしたら笑い事ではないらしく、涙目でこちらを睨み付けてくる。

それにしても高校生にもなってうにゃああ、はないだろう。

うっかり気持ち悪いどころか可愛らしくなってしまうところがキラだけど。

「アスランの馬鹿!!痛くしないでって言ったじゃないか!!」

「消毒が嫌なら怪我をしないことだな」

すぱりと切り捨てるようにそう言うと、キラは一度言葉に詰まった。

しかし、負けじと言い返してくる。

「仕方ないだろ。運動部ってそういうものだし」

「あんまり怪我するようなら辞めさせるって前から言ってるけど」

「う……。っ、ていうか、アスランに僕の部活制限する資格ないじゃん!!」

不満気に声を荒げるキラに、はぁ、とひとつ息を吐く。

どうして分かってくれないかなぁ。

「キラが怪我するのは、俺が嫌なの」

「……何で」

きょとんとそう言うキラは、本当に分かっていないご様子で。

なんだか少し苛立った俺は、キラの傷口を舐めてやった。

「いっ……ったあぁぁっ!?何すんの!!」

血と消毒液の混じった微妙な味が口内に広がる。

「……まず」

「美味しかったらこっちがびっくりだよ!!」

キラがドン引きした様子でつっこんできた。

俺は体制を変えて、キラに口付ける。

とりあえず口直しだ。

口内を蹂躙するように掻き回せば、仄かな甘さが広がった。気のせいだとは思うが。

満足いくまでキスを堪能して、唇を離した頃には、キラはすっかり力が抜けてしまっていたようで、ふにゃりと俺にもたれ掛かってきた。

「……アスラン」

「ん?」

「怒ってる?」

か細い声でそう問われて、思わず笑みが溢れた。

「……少しな」

「そう」

「……俺のキラが傷付くのは、やっぱり嫌だから」

「かすり傷だよ?すぐ治るのに」

「それでも。もしかしたら痕残っちゃうんじゃないかな、とか、考えるとさ」

たかがかすり傷の傷痕だとしても。

キラに傷が残るのは嫌だった。

綺麗なままでいて欲しいのが半分。

もう半分はキラに跡を残すのは自分だけがいい、だなんて、下らない独占欲。

「キラ、絆創膏貼るから」

「いいよ。放っておけばそのうち」

「俺の話聞いてた?」

被せるようにしてそういえば、キラは観念したように足を差し出した。


(今日、保険医居なくてよかったかも)
(なんで?)
(キラの足、他のやつに触らせたくないし)
(……馬鹿)













タイトルは虚言症様より


2011*03*15



 

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