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夕香が部屋を去ると、風丸はぽすんとベッドに倒れ込んだ。

緊張していたのは見ていてわかった。

俺もベッドに腰掛けて、何とはなしに彼の髪の毛に触れる。

その感覚がどうにもむず痒かったらしく、風丸は小さく笑い声を上げながら身を捩った。

ごろんと回転して仰向けになる。

こちらを見上げてくる様子にどきりとした。

「豪炎寺」

「ん?」

「夕香ちゃん、いい子だな」

「あぁ」

夕香は自慢の妹だ。

頷けば、風丸はくつくつと笑い出した。

その様子にほっと息を吐く。

こんな風に笑う風丸は暫く見ていなかった気がするからな。

俺は風丸に覆い被さるようにして、唇を合わせる。

触れ合わせる直前、風丸が慌てたように瞳を閉じるのが視界に入り、心が和んだ。

ちゅ、と軽い、触れるだけのキスをする。

初めてのことだから、実はかなり緊張していたり。

しかし緊張度合いで言えば、風丸の方が遥かに上回っていたらしい。

唇を離せば、真っ赤な顔の風丸が目に入った。

おずおずと瞼を上げて、俺を見る。

笑いかければ赤い顔が更に真っ赤になった。

「……可愛いな」

「なっ、かわ……?!」

可愛いと言われるのが相当に心外だったようだ。

風丸は半ば叫ぶようにそう言うと、不満気に俺を睨み上げる。

そんな様も可愛いだけであると、本人は気付いていないのだろう。

堪らず再びキスをする。

可愛いと言われた仕返しのつもりなのか、俺より先に、彼の方が舌を伸ばしてきた。

誘っているようにしか思えないそれに、俺も応える。

まさかこんなに早くディープキスまで漕ぎ着けるとは思わなかったし、彼の方から仕掛けてこなければするつもりもなかったけれど。

「……っ、は」

深いキスの気持ちよさに酔いしれていると、水音に混じり、聞こえた高い声。

鼓膜を震わすそれにまた、痺れるような気持ちよさを感じる。

唇を離せば厭らしい音を立てた。

俺も、風丸も、微かに息が上がっている。

風丸の濡れた瞳にどくりと何かが俺の中を走った。

「……風丸」

「ひぁ、」

耳許で名前を囁けば、風丸は身体を震わせる。

自分の声が酷く掠れて、欲に満ちていて、自分でも驚いた。

再びキスを落とそうと、すると、風丸が身体を回転させた。

壁ではない方に転がした身体は、当然ベッドから落下する。

どすん、と。

鈍い音が部屋に響いた。

「……いっつぅ……」

打ったらしい頭を撫でながら起き上がる風丸。

瞳に溜まった涙はさっきとは違うものなのだろう。

「……何してるんだ」

思わず呆れたようにそう問うてしまう。

風丸は困ったように苦笑して。

「いや、つい癖で転がり下りようと……こんなに床固くなかったから」

「……そうなのか」

転がり下りるなんて言葉初めて聞いた。

まぁ、今回は転がり下りようとして転がり落ちていた訳だが。

「頭、大丈夫か?」

「ん?あぁ、ちょっと打っただけだし」

「おにいちゃーん?今すごい音したけど……」

ドアの向こうからパタパタと夕香が走ってくる音が聞こえる。

立ち上がった風丸がドアの前に立つと同時に、夕香が扉を開けた。

然程距離はなかったから、当然、扉は風丸にぶつかって。

今度は頭の前方にダメージを食らったようだ。

「……いた、」

「うわ、風丸お兄ちゃん大丈夫!?ごめん!!」

「……はぁ」

風丸が人間の暮らしに慣れるには、まだまだ時間が掛かりそうだった。














2011*03*16



 

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