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□狡いですよ、そういうの
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「コーン」

裏で休憩をしていると、後ろからコーンを呼ぶ声。

デントだ。

その声にただならぬ何かを感じて、恐る恐る振り返る。

「なんですか?」

出来る限り可愛らしい風を装って(この歳でそれをするのは少し、あれですけど)振り返る。

コーンの真後ろで仁王立ちをするデントの表情は、予想通り険しいもので。

何かした覚えはないのに思わず謝りそうになってしまった。

「なんですか?」

一応、そう訊いてみる。

するとデントは、やっぱりね。そう呟いた。

「だから、なんですか」

その様子に少しばかりイラついたコーンは、つい不満気な声を出してしまう。

「これ」

しかしデントのほうは全く臆する様子もなく、ドンと小瓶をコーンの前に置いた。

よく見れば、うっすらと“しお”と書いてある。

一体塩の瓶がどうしたと。

と、そこまで考えてハッとする。

「え、あ、もしかして……」

嫌な予感がコーンの中を駆け抜けた。

デントもコーンの言わんとした事が分かったようで。

無言で小瓶を手渡してきた。

コーンは内心既に辟易しながらそれを受け取る。

少しだけ手に中身を取り出して、舐める。甘かった。

「砂糖、ですね……」

何というか、泣きそうだ。泣きたい。

まさかこのコーンが、そんな初歩的な間違いをするだなんて。

と、暫くショックで沈むものの、それ以上に嫌な現実がすぐに頭に浮かぶ。

「もしかしてこれ、お客様に……」

「出しちゃったよ」

「うわあぁぁあ‼」

穴があったら、というか穴を掘って潜り込みたいぐらいの気分だった。

「ま、まぁそんな、ね。今ちゃんとポッドが対応してくれてるし」

さっきまで険しい表情をしていたデントが今度は慌てて取り繕ってきた。

コーンのあまりの落ち込みっぷりに流石のデントももう怒る気をなくしているようだ。

正直、怒ってくれた方が気が楽なのですが。

コーンがそんな風に考えているだなんて知る由もないデントは、くすりとひとつため息混じりに苦笑すると、コーンを抱き締めた。

「デント?」

不思議に思って見上げれば、さっきとはまた違うデントの顔。

(……あれ、)

この顔は見た事ない、かも。

そう思って呆然としている間に、デントの顔が近づいてきた。

あと、数ミリすれば触れ合ってしまうような距離。

いくら生まれてからずっと共に過ごして来たからといっても、こんな至近距離で兄弟の顔は見た事がない。

いや、兄弟でなければ見た事があるというわけでもないのだが。

「ねぇ、コーン、」

心なしかその声すら普段とは違うように聞こえて。

どきりと、した。

「な、なんですか?」

一歩。

小さく後ずさってそう問いかける。

「キス、していい?」

「は、い?」

唐突過ぎる切り返しに唖然。

なにをどうしたらキスに繋がるのだろう。

デントはそんな疑問には答えてくれる気がないようで、いいの?ともう一度訊いてきた。

「いや、その」

急に、そんなこと言われても。

「じゃあさ、こういうのはどう?」

戸惑うコーンにデントが名案とばかりに声を掛ける。

「……何?」

「キスしたら、今回の事をチャラにするっていうの」

「はい?」

それは、何というか。

「ほぼ脅しじゃ、」

そう呟けば、そうとも言うね、と開き直った様子のデント。

「で、どうする?」

デントはそう言って首を傾げるけれど。


(拒否権を奪ったのは貴方でしょう……)








    






2011*03*21




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