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□僕だけじゃないと気付いた
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「ヒロくーんっ!デートしよっ」

キーンコーン、と、いつも通りのチャイムが校内に鳴り響いた直後。

これまたいつものように抱き付いて来た五十鈴ちゃんに、僕は嘆息する。

彼女という名目上、以前より抵抗はないものの、未だ羞恥を拭い切れてはいない。

なにより周りの何ともいえない視線が恥ずかしくて仕様が無いのだ。

とはいえ今更それを言ったところで、五十鈴ちゃんのこれが直るとも思っていないので、僕はそのまま帰り支度を始める。

「デートって……帰りに寄りたい所でもあるの?」

鞄に荷物を詰めながらそう問いかければ、五十鈴ちゃんは不満気に頬を膨らませた。

その様子がなんだか可愛らしくて思わず頬が緩みそうになる。

「そういう言い方ないじゃないさ。ヒロくんってほんと、色気がないっていうか」

「そんなのなくていいよ」

唇を尖らせて文句を言ってくる五十鈴ちゃんに反論する。

色気なんて僕には無縁な言葉だ。

五十鈴ちゃんにも無縁な言葉な気がするけれど。

なんたって、デート、という言葉で表現してはいるものの、その行き先は。

「今度はなんのお店?」

「期間限定のグレープ屋さんが出来てね……」

甘味処に決まっているのだ。

新規のグレープ店について熱く語り始める五十鈴ちゃんに、今度こそ笑みがこぼれた。

色気なんてなくたって、このままの彼女が好きなのだと、自覚するのは容易で。



「ヒロくん、こっちこっち‼」

ぐいぐいと僕の腕を引いて駆ける五十鈴ちゃん。

デートと銘打ったのもわりかし本気であったらしく、手はずっと繋いだままだった。

一度、離してくれと言ってみたけれど、デートだから無理、と、一刀両断されてしまった。

二人きりならともかく、街中で手を繋ぐのは恥ずかしいんだけど……。

そうは思うも、彼女の嬉しそうな顔を見てしまえば強くは言えなかった。

「うわぁ、やっぱり凄い並んでるや」

眉を下げて呟いた五十鈴ちゃんに、僕も同調する。

いや、予想していなかった分僕の方が驚いているかもしれない。

「ここって、そんな人気なの?」

あまりの行列に思わずそう問いかければ、五十鈴ちゃんは頷いて。

「女の子は期間限定、って言葉に弱いんだよね〜」

「それで、五十鈴ちゃんもその一人だと」

「ま、そんなとこ」

屋台のような形になっているそこに目を向けて笑うと、今度はメニューについての相談を持ちかけてくる。

「ねぇ、ヒロくんは何食べる?」

「何でもいいよ」

「まぁたそんな事言う。つまんないの」

ぷくぅと頬を膨らませる五十鈴ちゃんには悪いけど、だって本当になんだっていいのだ。

別段苦手だというわけでもないものの、特に甘いものが好きというわけでもないし。

五十鈴ちゃんもそれを分かっているのか無理に決めさせる事はせず、いくつかオススメを言ってきた。

僕はその中から適当にチョイスして、五十鈴ちゃんに告げる。

五十鈴ちゃんのオススメ、というのはつまり五十鈴ちゃんが食べたい物なのだ。

最終的に半分くらいはあげることになるんだろうな、なんて思いながら会計を済ませた。

その予想は見事に的中して。

五十鈴ちゃんは、自分のを半分も食べ終わらないうちに「そっちも一口ちょーだい」そう言いながら僕を覗き込んできた。

元からあげるつもりではあったので、はい、とそれを手渡そうとしたら違う、とそっぽを向かれてしまった。

……どういうこと?

首を傾げると五十鈴ちゃんは煩わしそうに僕を見た。

「そこは、あーん、ってしてくれるところでしょ!」

「はぁっ!?」

何でそんな事も分からないのとでも言うようにそう言われて、寧ろこっちが面食らってしまう。

何で当たり前のように言うのさ。

「デートだよ?デ、エ、ト。それなのに手渡しとか、あり得ない」

「あり得ないって、ここ、外だよ?」

「別にいいじゃないさ。見せ付けてやれば。キスするわけでも、ないんだし」

最初は明るかった五十鈴ちゃんの声が、次第に寂しげなものに変わる。

僕も、それに、ハッとして。

(そう、だよね)

キスは、したくても、出来ないのだ。

僕以上に五十鈴ちゃんがその事で苦しんでいるのは知っている。

それこそ、自分の生まれを恨むくらいに。

だったら。

このくらいの我儘、聞いてあげるべきなんじゃないか?

何より、暗い顔をさせるなんて、彼氏として、どうかと思うし。

「五十鈴ちゃん。はい。その……あーん」

つい、と、クレープを差し出してそう言う。

なんと言うか……恥ずかしい。予想以上に。

なんだかいたたまれない。

もうこの際早く食べてくれないかな、そんな僕の思いとは裏腹に、五十鈴ちゃんは暫く呆然とした顔で僕を見つめて。

それから、ぱぁっと目を輝かすと、もう一回!と。

「もう一回って何だよ?!」

「あーんって言って‼」

「やだよ……どれだけ恥ずかしいか分かってるの?!」

こっちは精一杯の勇気を出したというのに。

ところが五十鈴ちゃんは分かってるよ、と間延びした声で。

「だって、ヒロくん顔真っ赤だもん」

「……もう」

怒りたいのに、そんな屈託なく笑われちゃ何も言えないじゃないか。

もう一回、未だそう言ってくる五十鈴ちゃんに苦笑した。

「……あーん」

「えへへ、ヒロくんありがと」

嬉しそうにそう呟いてはむりとクレープを頬張る五十鈴ちゃん。

その頬が微かに染まっていたのを見つけてしまい、なんとはなしに嬉しくなった。
















2011*03*23



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