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「いってきまーす」
「いってきます」
「いってらっしゃい」
玄関前で挨拶をする二人を笑って見送る。
朝のまだ早い時間、平日二人はいつも学校に行くために家を出る。
俺は、当然留守番だ。
留守番中は外に出るなと豪炎寺に言い含められていた。
初日にあんな頭をぶつけまくったのを目にしていた訳だから、外に出すのが不安だったのだろう。
その気持ちは分からないでもないから、俺は大人しくずっと家にいた。
その間、夕香ちゃんから教わった家事をしたり、豪炎寺がくれたゲームをしたりして暇を潰す。
……ここに来て二週間。
最初の頃は、家事にも、ゲームにも、慣れるので必死で、あまり他の事を考える事は無かったのだが。
それに慣れてくると次第に、今まで誤魔化していた、気付かないようにしていた想いが、だんだんちらつくようになった。
どんなにゲームに熱中しようと思っても、それは心の隅にずっと暗い影を落として。
ーー宮坂、今頃どうしてるかな。
俺はもう、割り切って出て来ているつもりだった。
いや、自分のした選択に後悔はしていない。
ただ、少しの不安。
宮坂の事だから、心配して探し回っているかもしれない。
それで、体調崩していたり。
せめて書き置きくらいするべきだったのかもしれない。
宮坂にくらいは、きっちり本当の事を知らせておけばよかった。
(あぁ、もう……駄目だなぁ)
今、俺、幸せで幸せでしょうがない筈なのに。
未だに迷いを捨て切れていないみたいで嫌になる。
どうしよう、そう思いながら窓の外を見た。
平日の日中、雨が降っている訳でもない道路は、車の姿は疎らだった。
これなら、と。
これなら、外に出ても、平気なんじゃないか。
ふと、そんな事を考えた。
時計を見れば、まだ昼前。
あそこまでそう遠くなかった筈だし、必要最低限の事だけを話すようにすれば、二人が帰ってくる前に家に戻って来れるだろう。
「……よし」
俺は一度、気合をいれるようにそう呟いて、俺用のクローゼットを開けた。
朝から俺は寝間着のままだった。
流石に、これで外に出るわけにもいかないだろう。
俺は適当な衣服を手に取り着用する。
前の休みに、豪炎寺と買いに行ったものだ。
その時の事を思い出すと、少し心が弾んだ。
こういう時、やっぱり俺、あいつの事好きなんだなぁ、なんて、しみじみと考えてしまう。
とはいえ、今はそういうのに浸っている場合でもない。
なんたって、時間制限があるのだから。
豪炎寺から手渡されていた鍵を持って外に出る。
ちゃんと施錠したのを確認して、エレベーターに乗り込んだ。
……一人で外に出るのは、初めてだ
。
なんだかドキドキするのは、不安のせいもあるけれど、それ以上に初めての事に対するわくわくがあるのに気が付いて、思わず苦笑しそうになった。
2011*03*24