メイン5
□不変なんてありえないけど
1ページ/1ページ
チェレンが酷く臆病なのだと、気が付いたのは最近だった。
嫌々俺たちに付き合っている様な顔をして、実は何より俺たちとの絆に縋っていたのだと。
敵わないな、そう思っていた彼が、今はとても脆いものに思えた。
殆んど毎日、俺は彼と闘っていた。
少しずつではあるけれど、チェレンが強くなっていくのが俺にもわかって。
それが、何故だかとても嬉しいのだ。
……と、そんな理由は実は二の次。
正直なところ、チェレンの顔が見たいだけ。
「チェレン、おーはよ」
「……また来たの?毎日毎日よく飽きないね」
挨拶をすれば、悪態で返って来た。
口ではそう言っている癖に、本当に嬉しそうな顔をするものだから、可愛くて仕方がない。
本人は嫌がる顔をしているつもりなのだろうけど。
チェレンは嘘がへたくそだ。
これは、旅を始めるずいぶん前から知っていた事。
俺たち幼なじみの前になると、殊更自分の感情を隠せなくなる。
と、いうよりはむしろ、あまり仲良くない人の前だと無表情に拍車がかかるからわかりにくいのかもしれない。
プラス、付き合いの長さで彼の表情を読むのが上手くなったのもあるのだろう。
そういえば小さい頃は、何考えてんのか分からなくて苦労したっけ。
よく喧嘩もしたなぁ、そんな事を思い出したらなんだか笑みがこぼれた。
彼らと過ごした日々は長かった様であっという間だ。
もう、四人揃う事が当たり前ではない。
それをなんだかとても、寂しく感じた
。
「トウヤ、勝負、」
「後でな」
「え?な、に……」
胸が張り裂けそうに苦しくなって、チェレンを抱き締めた。
最初は驚いて真っ赤になったチェレンだけど、暫くすると苦笑して、俺の背中を撫でた。
「どうしたんだよ、急に」
「……ちょっと、ね」
みんなそれぞれの道を行く、今のこの状況を悪いだなんて思っていないし、自分でしたこの選択に後悔なんてしていない。
だけど、唐突に昔が懐かしくなった、なんて。
口に出すのは気が引けたし、あまり喋りたい気分でもなかった。
けれど彼は嫌な顔一つせずに、俺を受け入れてくれる。
原因なんてわからない筈なのに、そんなのどうでもいいと言う様に。
それが嬉しかった。そんなところをとても、愛おしく思った。
「チェレン、俺、チェレンのこと、すき」
「……本当、急になんなの」
呟けば、チェレンは困惑した表情で俺を見た。
顔が赤いのはある意味至極当然のことで。
俺はチェレンの横の髪を梳く様に触れた。
俺を見つめる彼の瞳は、俺の視線の少し下。
ついこないだまで、チェレンの方が背が高かったのにな。
チェレンも同じ事を思ったらしく、身長、伸びたよね、と。
その声はけして嬉しそうではなかった。
「嫌?俺に抜かされるの」
「嫌も何も、仕方ないし、別に嫌、じゃない、けど」
チェレンそこで一度言葉を切ると、逡巡するように目を伏せた。
それから、再び俺を見据えると。
「……少し、悔しいかな。身長でも君に負けるなんて」
そう言って小さく笑った。
チェレンは、きっと俺より過去に固執していた。
何も知らなかったあの頃は、ただただ幸せで。
それが良いことだとは思わないけれど、たまにあの頃に戻りたくなる。
身体の変化は、時の進みをはっきり物語っていた。
「トウヤ、ぼくは、ポケモン勝負ももちろん、楽しみだけど。君と会うことが、なにより楽しみなんだ」
「……知ってるよ。それに、俺もだから」
視線が通うと、どちらからともかく唇を交わした。
久方ぶりの口づけは、甘さと、切なさと、少しの寂しさの味がした。
(変わらないなんて、無理な話なんだけどね)
2011*03*29