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□手を繋いで
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「ごめん、遅れて」

「たったの5分じゃん」

小走りで駆け寄る俺を明るい笑顔で迎える緑川。

今日はデートの約束だったのだけれど、あろうことか俺は寝坊してしまった。

息を整えている俺を緑川は首を傾げて見ている。

「……何?」

「いや、寒そうだなーって」

「そんなことな……っくしゅん」

否定の言葉を打ち消すように、くしゃみが出た。

……実際、さっきまで軽く走っていたからあまり分からなかったのだが、落ち着いてくるとじわじわと寒さが体に染み込んでくる。

「……寒そう」

「ははっ」

真面目に寒くなってきたのを誤魔化すように笑う。

そんな俺を見て緑川は呆れたように笑った。

「大体、なんでそんな薄着なの」

「……昨日まで暖かかったから」

「急ぎすぎて忘れた、とかじゃないの?」

それだったら遅れてでも厚着して来て欲しかったって、そう言う緑川はコートにマフラー、手袋と完全防備だ。

対する俺は、薄手のパーカー。

下に長袖のTシャツを着てはいるが、少ししか役に立っていないように思える。

昨日までは春の兆しが見えていたので、この格好でも全く寒くなかったのだが、今日になっていきなり冬が舞い戻ってきたらしい。

気候に空気を読めというのも変な話だけど、もう少し暖かいのが続いていてくれても良かったんじゃないか。

「仕方ないから片方貸すよ」

緑川は見かねたように左手の手袋を外し、俺に渡してくる。

「え、いいって!!」

「俺がつけて欲しいの」

「でも、そしたら緑川が寒くなるし」

「君ほどじゃないから平気だよ。それに、」

そこで緑川は一度言葉を切り、勝手に俺の左手に手袋をつけた。

そして、何もつけていない手同士を繋いで、コートのポケットの中へ。

「…こうしてれば、暖かいでしょ?」

その動作があまりにも自然すぎて、抵抗するという考えすらも沸き起こらずに、俺はただ、されるがままになっていた。

「え……と、ありがとう」

「うん」

「……暖かい、な」

「でしょ?」

にこり、と太陽みたいに笑ってから、緑川は歩きだした。



その笑顔を見るだけで、一瞬、周りが暖かくなったように感じる、不思議。



緑川の手の温もりでかじかんだ指が解けていくのを感じながら、俺は心の中で、こういうとこ、好き、だな、と呟いた。

……都合のよすぎる考えだけど、この繋がった掌から、俺の気持ちが届いてくれていると信じて。






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