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□大事な妹
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「きりーつ、きょーつけー、れーい!!」
魅音の威勢のよい声が教室に響く。
普段ならこの後、部活が始まるのだが、今日は魅音と圭一の予定が合わないとのことでお流れになった。
……デートじゃないかと密かに疑っているが、それは心の中に秘めておくことにしよう。
梨花ちゃまは梨花ちゃまで大事な用事があるらしく、レナさんはといえば学校が終わって部活がないと知るなり例の「宝探し」へ繰り出した。
残ったのは、私と沙都子。
もちろん、二人ともまっすぐ家に帰ってもいいのだが、それはなんと言うか……つまらない。
まぁ、たまには沙都子と二人きりでいるのも悪くないかな、なんて思ったりして。
「沙都子ー」
「はい?」
「私これから、暇なんで。沙都子の家、行ってもいいですか?」
「え……あの、詩音さんがうちに来るのは構わないのですけれど。……今、ちょっと散らかってまして」
「んじゃ、片付けもしてきますから」
私がそう言うと沙都子は目を見開いた。
「……そ、そんなの悪いですわ!!」
「何気ー遣ってんです?」
「うー……。じゃあお願いしますわ……その……ねーねー……」
「………はい」
「な、に、ニヤニヤしてますの!!」
早く行きますわよ!!、そう言いながら私の服の裾をぐい、と引っ張る。
……ねーねー、か。
うん。
素敵な、響きだ。
沙都子は最近、時々、本当に時々だけれど、私のことをねーねー、って呼んでくれる。
私は、それがとっても嬉しい。
今はまだ恥ずかしいみたいだけど、そのうちねーねーって呼ぶのが当たり前になって欲しいな、って。
それは私の密かな野望でもある。
「そろそろ肌寒くなってきましたね」
「そうですわね」
私は沙都子に合わせてゆっくり歩を進める。
帰り道にたくさん見掛ける木々は、所々色が代わり始めていた。
「今年の夏は、なんだかあっという間でした」
「そうですわね。色々ありましたし。」
「夏休みも部活でほとんど遊んでたり」
二人で思い出をたどり、二人で笑う。
なんとなく、こういうのが嬉しい。