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□たまには至近距離も
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たんたん、という音が聞こえたと思ったら、それはすぐにザアァァァッという音に変わった。
嫌な予感がして窓の外に目を向ければ、予想通り、どしゃ降りの雨がアスファルトの色を変えている。
……雨は嫌いだ。
地面や屋根を叩く音がどうにも好きになれなくて、どうしてもイライラする。
もちろん濡れるのも嫌いだし。
まぁ今はそれよりも傘を持っていないことがイラつく原因。
普段なら置き傘があるのだがそれはこないだ今日と同じように急に雨が降ったときに使ってしまった。
校内に誰か居る時間ならば誰かしら取っ捕まえて借りることもできたけど、もう既に下校時間は過ぎているし。
そもそも天気予報では雨が降るなんて言ってなかったから傘を持ってる人も居なかったかも知れない。
……なんて悠長に考えている場合じゃない。
こうしている間にも雨足はどんどん強くなっていって。
なんとなく、そう、なんとなくだけど、これは通り雨じゃなくて普通の雨な気がした。
いっそのことここに泊まってしまおうか、そんなことを考えるくらいだ。
考えるだけで実行はしないけれど。
風紀委員の誰かに連絡すればものの数分で傘ぐらい持ってくるだろうけれど、なんだかそんな気分にすらならなくて。
面倒くさいから濡れて帰ろうかな。
……はぁ、雨は、嫌いだ。
雨のせいで陰鬱な気分になって、なんだか自分が乱される感じ。
僕の心を掻き回すのはあの男だけで十分だ。
溜め息を吐きながらもびしょ濡れになる覚悟を決め、応接室を出た。
誰もいない校内を歩くと、響く僕の足音と、遠くから聞こえる雨の音。
心が掻き乱される。
息詰まりそうな気分になりながら、靴を履き替える。
「恭弥!!!」
靴を履き終え、立ち上がったとき。
唐突に聞こえた声に、ざわりと心が震えた。
昇降口を見遣る。
そこには雨以上に僕の心を掻き回す男がいた。