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□依存
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力強くて、落ち着く、そんな海の音が好き。

だから、僕は時間があると海を眺めに来る。

便利な事に住んでる所が海に近いから、結構頻繁に。

「キーラ。またこんなとこにいて。まだ寒いんだから風邪ひいても知らないよ?」

「、アスラン」

耳に柔らかく響くアルトに声だけで返事をする。

アスランは僕の隣に腰かけた。

それと同時に肩にふわりとした感覚。

それは僕の上着だった。

……アスランってちょっぴり過保護だなって時々思う。

その優しさは嬉しいし、アスランらしいとも思うけど。

とりあえずお礼の言葉を呟いて、再び海に心を向ける。

潮の満ち引きの音、そして仄かに漂ってくる海の香り。

隣のアスランの、微かに聞こえる息遣い。

平和で、それが愛しくて、幸せ。

「……キラ」

「何?」

「……キラってさ、海見て何考えてるの?」

突然の質問にアスランを見る。

今日初めて見たアスランの顔は、いつも通りに思えるけれど、いつもより切なそうな表情をしてた。

何考えてるのって、僕が聞きたいぐらいだ。

アスランは真っ直ぐな目で僕を見つめていて。

その翡翠に、なんだか引き込まれそうな感じがした。

「海は、変わらないから」

例え戦争があっても、変わらぬ日常の時でも。

ただ変わらずにそこにある。

僕達は変わっていってしまうけれど、悩みだって一杯あるけど、海を見てるときはそれを忘れられる。

アスランの質問にそう返せば、アスランは少し首を傾げて、それからまた切なそうに目を細めた。

最近、アスランはよくこういう顔をする。

その原因は僕。

自分で言うのもなんだけど、アスランの世界は僕中心に回ってるんだと思う。

僕の世界がアスラン中心に回ってるのと同じように。

だから、どちらかが変わった様子を見せれば、連鎖してもう片方も調子が狂ってしまう。

支え合うと言うにはあまりに脆い関係。

僕たちのこれは支え合う、よりも依存していると言った方が合っている。

アスランの服の裾を軽く引っ張れば、アスランの腕が僕を包み込んだ。

「…キラ、俺、もう二度とお前を離さない。ずっと一緒にいる」

アスランは絞り出すような真剣な声で僕にそう言った。

「……うん」

僕はたったそれだけ答える。

"ずっと一緒"

それは僕たちがまだ無垢で何も知らなかった頃や、一度目の戦争が終わってお互い離れる辛さを知ったあとにも聞いた言葉で。

僕には、……きっとアスランにも分かっている。

その言葉は絶対じゃないって。

その証拠に僕達はもうしないと誓ってた戦争をして、嫌だったはずなのに再び剣を交えた。

それでもその言葉を吐くのは、きっとそれを約束とすることで少しでも安心したいから。

いっそ呪縛のように"ずっと一緒"その言葉でがんじがらめにされてしまいたい。

お互い束縛しあって、それがいつしか歪んだ依存になっていたのが僕達。


「アスラン、大好きだよ」


「俺も、愛してる」


紡がれる愛の言葉も、そのあとにされるキスすらも、お互いを離すまいとして繋ぐ鎖のよう。

それでも。

その鎖で繋がっている限り、二人が離れることはないから。

僕はそれを幸せだと思えるんだ。







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