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「すごいね、この薔薇」
「うん。普段八朔の匂いに慣れてたから変な感じだけど、すごい良い匂いだよ」
すーはーと深呼吸する、えーと、悟史様と博士様。
今僕達がいるのは、薔薇庭園内にある、丸い机のあるところだ。
そこにいれば必然的に薔薇の香りが漂ってくるわけだが、薔薇庭園の世話をしている身としてはその感想はやっぱり嬉しい。
僕は一応お客様である二人に紅茶を出すために椅子を立った。
すると、博士様も席を立ち、僕の前にやって来た。
「手伝うよ」
「あ、いえ、これは僕の役目ですから」
「そんな風に気負わなくって良いって。僕達はお客様としてじゃなくて、ちょっと遊びに来たってそんだけだから」
眉を下げてそう言ってくる博士様。
……優しいなぁ。
一方の悟史様はといえば、優雅に椅子に腰かけていた。
確かにこれは僕の役目だし、手伝って欲しいとも言っていないけれど、これはこれで若干イラッとくる。
矛盾しているのは重々分かっているけれど仕方ないだろう。
「ねぇねぇ二人とも、お茶なんて良いからさ、どっか遊びに行こうよ」
それどころか、一応あるにはある六軒島の観光パンフをピラピラしながらそう言ってきた。
「はぁ……でもお二人は長時間飛行機に乗ってきたんでしょうし、少しでも休憩したほうが良いのでは?」
「むぅ……だからだよ。ずっと座ってたから動きたいんだ」
「悟史様がそうしたいのなら良いですが、……博士様は」
ちらりと博士様の方を窺い見れば、戸惑ったような表情。
「えーと、僕はお茶してからでも良いかなって思うんだけど、北条君もさ。この紅茶美味しそうだし」
博士様が悟史様の表情を見つつそう言えば、反対されても押し通すほどの強情さは持ち合わせていないのだろう。
「むぅ」と一言呟き押し黙ってしまった。
「あ、そういや嘉音も博士も、僕のこと悟史様とか北条君とか、そんな呼び方じゃなくて良いからね?」
「え……、じゃあ、悟史君?」
「悟史、で良いんだけどな……」
「でも初対面だし、なんか……」
僕も博士様に同意だ。
逆に初対面でいきなり呼び捨てってどうなんだろう。
「嘉音も、様付けとか慣れてないから……ね?」
「分かりました。悟史君。……これで良いんですか?」
そう言えば、「なんかよそよそしいんだよなぁ…」と呟きながらも一応納得したようで、名前の件は一段落した。
あ、あと博士様のことも博士君と呼ぶことになった。
……君づけで誰かのことを呼んだのってこれが初めてなんじゃないか。