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□片翼
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僕は所詮家具だから。
お嬢様のように屈託なく笑うことも、自由に羽ばたくこともできないのだ。
それでも、お嬢様を愛すことができるこの心は本物だと信じてる。
お嬢様は僕には勿体無いぐらい輝いていると思うけれど、
それでも、彼女が飛び立たずにいる間は、隣にいたい。
それをお嬢様に言ったら、照れたような顔をして、それから、怒ったように口を開いた。
「それは違うぜ」
「……え?」
「嘉音君にだって羽ばたける翼はある」
お嬢様の指が、僕の服に描かれている紋様をなぞる。
「嘉音君だって、飛び立っていいんだ」
「僕は……、」
「嘉音君。私はさ、この片翼の鷲の紋章が本当はどういう意味なのかは知らないけど、けど、私なりの解釈はしてるんだ」
「と、言いますと」
「鳥は片方だけ翼があっても飛べないだろ?……だから、飛ぶためにはもう片方翼が必要なんだ。つまり、二人じゃなきゃ飛び立てない」
だから、そう言って顔を上げるお嬢様。
びっとさっきまで僕の紋様をなぞっていた指がまっすぐ僕を指した。
「嘉音君は、私にとってのもう片方の翼なんだ」
眩しい笑みをまっすぐに向けてくるお嬢様。
話が些か飛躍しすぎている気もするが、言いたいことは分かった。
お嬢様が飛び立つときは僕も一緒に飛び立つってそういうこと。
家具と人間が同じ翼で、均衡を保てるとは僕は思わない。
けれど、お嬢様はそれを信じて疑わないようで、太陽みたいな笑顔で僕を見ていた。
……本当に、僕には勿体無いと思う。
それでも、その笑顔に愛しさを感じる。
離したくないと思う。
僕が何処か違う場所へ行ける程、立派な翼を持っているとは思えないけれど……もしかしたら、お嬢様の大きな翼は僕を引っ張っていってくれるかもしれない。
「……お嬢様。僕は、お嬢様と一緒に居たいと思います。でも、お嬢様の迷惑になるならば離れることは躊躇しません」
そう。
例えば僕の翼が弱々しすぎてお嬢様が飛び立てないならば。
僕より相応しい人間にお嬢様の片翼を譲るだろう。
「嘉音君が迷惑になることなんてない!!むしろ、嘉音君がいないとダメなんだよ」
叫ぶようにお嬢様は言った。
……多分、離れる、その言葉に敏感に反応したのだろう。
ぎゅう、と手を握ってきた。
……温かい。
いつでも離れる覚悟がある。
それは本当の筈だけれど、こうしてお嬢様の温もりに触れる度に揺らいでいくのを確かに感じた。
それが揺らぐのは、怖くもなり、何処か幸せでもあった。
人間に近づくのは怖い。
一時のまやかしでも人間に成れることが嬉しい。
相反する2つの感情がぐらぐら揺れる。
僕はお嬢様を抱きしめた。
……早く、離れる覚悟なんて壊されてしまえばいい。
――そして欲しいのは、
この人を絶対に手放さない、という覚悟。
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