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□水族館デート
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「……佐久間、デートしたいんだが」

「水族館ならいいぞ」

「………………だよな」

いや、別に水族館が嫌いな訳ではないのだ。

決して。

しかしだ。

今まで10回ほどしたデートが全部水族館でだ。

流石に飽きるっていうか。

たまには他の場所でデートしたい。

それを思っても言えないのは。

「明日だよな?日曜は練習あるし」

佐久間が非常ーに嬉しそうな顔をするからである。

こんな幸せの絶頂みたいな顔をされれば、違う所にしようなんて言葉は飲み込むしかない。

―――――――――――

翌日。

お馴染みの水族館の前で佐久間と落ち合う。

……俺もうそろそろこの水族館の年間フリーパスを買った方がいいんじゃないか。

「げんだーっ!!」

早く早くと急かす佐久間。

そこらの小学生よりも楽しそうだ。

……可愛いからたちが悪い。

怒りたくても怒れないというか。

「そんなに急ぐと転ぶぞ」

「なんだよそれ!!俺は小学生じゃないぞ!!」

「似たようなもんだろ。現に――」

「うわぁぁああっ!?」

ぐらり、佐久間の体か傾く。

俺はそれを受け止めつつ言葉の続きを言った。

「――現に、足元の階段に気付いていないしな」

「……そういうことは先に言え!!」

顔を真っ赤にして叫ぶ佐久間の足元には、階段がある。

俺に話しかけながら後ろ歩きしていた為に、思いっきり躓いていた。

佐久間が体制を立て直したら、腰に回した腕を離す。

離した代わりに手を繋げば、文句を言いたそうにしてはいたが、転んだ手前振り払うこともできなかったのであろう。

普段ならば絶対にないことだけれど、躊躇いながらも手を握り返してきた。

「……これがデレってやつか」

「ジャジスルーかますぞ」

「冗談だ」

……ギロリと睨まれ目を反らす。

繋いだ手はそのままだから、本気で怒った訳じゃないんだろう。

まぁいくら他の人より沸点の低い佐久間といえど、デートだから少しは寛大になってくれているんだと思う。

俺の勘違いかもしれないが。

手を繋いだままゆっくりと館内に入って行く。
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