メイン3

□Dなんて、言えるわけない
1ページ/2ページ

昨日、俺と風丸は珍しく、本当に珍しく、喧嘩をした。

俺と風丸は性格的にも、ぶつかることがなかなかないから、今までだって喧嘩したことはあるにはあるけれど、数回ほどだし。

て、いうか。

俺たちの間では珍しい喧嘩のはずなのに、一晩過ぎたらすっかり原因を忘れてしまったのだ。

俺がそんなだから、風丸の方も忘れてくれてたりしないかなぁーと、淡い期待を抱いていたのだが。


(……忘れてるわけないか)


教室に入ったらいつもは一番に話しかけてくれるはずの風丸が、振り向きもしなかった。

それがなんだか悔しかったから、わざと豪炎寺に大声で話しかけてみたりもしたが、結果は変わらず。

風丸は本格的に俺に無視を決め込むつもりなようだった。

どうしたもんかな、と考える。

原因を忘れてしまった以上、その話をすれば逆効果になる恐れもあるし、そもそも悪いのがどちらだったかすらわからない。

俺の予想では、多分、風丸側に原因があると思うのだ。

だって俺が原因なら、すぐに謝るし。

それに過去の喧嘩を振り返って見ても、それが長引く場合は大抵彼に原因があった気がする。

風丸は変なところで意地っ張りだったりするから、謝るに謝れないみたいだ。

そうは言っても、今回ばかりは風丸が悪いと決まったわけじゃないから、決めつけるのもよくないんだけど。

時計を見れば、朝のHRまでまだもう少しある。

このまま今日一日無視されるのも嫌だし、その上これが続けば部活にすら支障を与えかねない。

……まぁ、後者は取って付けたような理由だけど。

「……なぁ、風丸」

意を決して風丸に話しかける。

すると予想通り、風丸はこちらを一瞥しただけで。

さらにはわざとらしく教科書を準備し始めた。

「、風丸っ!!」

それにはさすがの俺もイラッときて、思わず声を荒げてしまう。

教室中の視線が俺たちに向けられたのは分かったが、俺にはそれを気にする余裕はなかった。

しかし風丸の方は気になるらしく、やっとこっちを振り向いて、なんだよと、抑えた声で返してきた。

「何をそんなにまだ怒ってるんだよ」

それがあまりにも不機嫌そうな声だったから、思わずそう問いかけてしまう。

はっとしたときにはもう遅かった。

「……円堂、お前」

「あ……べっ別に何で喧嘩したか忘れたとかじゃ」

「……忘れたんだ?」

冷たい視線で言われ、うぐ、と詰まる。

どうにか反論しようと言葉を探しながら視線をさ迷わせるが、俺の語彙のなさ故に全く見つからなかった。

風丸はそんな俺に呆れたように息をつくと、かたりと席を立った。

「どこ行くんだよ」

「別に」

俺の制止の声も聞かず、教室の外へ向かう風丸。

俺は一瞬見送りそうになったけれど、はたと我に返り彼を追いかけた。



「、待て、って」

小走りとまではいかないが、結構な早歩きで歩を進めていた風丸の腕をつかむ。

場所は、人気の少ない廊下。

もちろんもっと前に彼の腕をつかもうと思えば出来たのだが、他の学年の見せ物になるのは御免だった。

「……円堂、あんまりしつこいと嫌いになるぞ」

バッと腕を振り払いながらそう言う風丸に、いよいよ訳が分からなくなる。

それと同時に怒りにも似た感情が沸き起こってきて。

「俺だって、」

お前のことなんか、大嫌いだ。

そう言おうと、した。

しかし、今まで嘘なんかついたことがない(特に、風丸には)口は、それ以上の言葉を発することはできなくて。

その事でやっと少し冷静になれた。

違うな。俺が言いたいのも、風丸が欲しいのも、こんな言葉じゃない。

その言葉は、俺でも分かるような単純なもの。


「愛してる」

「っ、何言って、」


ほらな、こっちが正解だ。

驚いてはいるものの、真っ赤になった風丸の顔がそれを証明していた。


(で、喧嘩の原因なんだっけ?)
(……もういいよ)










―――――――――――
Next
→あとがき。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ