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□Dなんて、言えるわけない
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昨日、俺と風丸は珍しく、本当に珍しく、喧嘩をした。
俺と風丸は性格的にも、ぶつかることがなかなかないから、今までだって喧嘩したことはあるにはあるけれど、数回ほどだし。
て、いうか。
俺たちの間では珍しい喧嘩のはずなのに、一晩過ぎたらすっかり原因を忘れてしまったのだ。
俺がそんなだから、風丸の方も忘れてくれてたりしないかなぁーと、淡い期待を抱いていたのだが。
(……忘れてるわけないか)
教室に入ったらいつもは一番に話しかけてくれるはずの風丸が、振り向きもしなかった。
それがなんだか悔しかったから、わざと豪炎寺に大声で話しかけてみたりもしたが、結果は変わらず。
風丸は本格的に俺に無視を決め込むつもりなようだった。
どうしたもんかな、と考える。
原因を忘れてしまった以上、その話をすれば逆効果になる恐れもあるし、そもそも悪いのがどちらだったかすらわからない。
俺の予想では、多分、風丸側に原因があると思うのだ。
だって俺が原因なら、すぐに謝るし。
それに過去の喧嘩を振り返って見ても、それが長引く場合は大抵彼に原因があった気がする。
風丸は変なところで意地っ張りだったりするから、謝るに謝れないみたいだ。
そうは言っても、今回ばかりは風丸が悪いと決まったわけじゃないから、決めつけるのもよくないんだけど。
時計を見れば、朝のHRまでまだもう少しある。
このまま今日一日無視されるのも嫌だし、その上これが続けば部活にすら支障を与えかねない。
……まぁ、後者は取って付けたような理由だけど。
「……なぁ、風丸」
意を決して風丸に話しかける。
すると予想通り、風丸はこちらを一瞥しただけで。
さらにはわざとらしく教科書を準備し始めた。
「、風丸っ!!」
それにはさすがの俺もイラッときて、思わず声を荒げてしまう。
教室中の視線が俺たちに向けられたのは分かったが、俺にはそれを気にする余裕はなかった。
しかし風丸の方は気になるらしく、やっとこっちを振り向いて、なんだよと、抑えた声で返してきた。
「何をそんなにまだ怒ってるんだよ」
それがあまりにも不機嫌そうな声だったから、思わずそう問いかけてしまう。
はっとしたときにはもう遅かった。
「……円堂、お前」
「あ……べっ別に何で喧嘩したか忘れたとかじゃ」
「……忘れたんだ?」
冷たい視線で言われ、うぐ、と詰まる。
どうにか反論しようと言葉を探しながら視線をさ迷わせるが、俺の語彙のなさ故に全く見つからなかった。
風丸はそんな俺に呆れたように息をつくと、かたりと席を立った。
「どこ行くんだよ」
「別に」
俺の制止の声も聞かず、教室の外へ向かう風丸。
俺は一瞬見送りそうになったけれど、はたと我に返り彼を追いかけた。
「、待て、って」
小走りとまではいかないが、結構な早歩きで歩を進めていた風丸の腕をつかむ。
場所は、人気の少ない廊下。
もちろんもっと前に彼の腕をつかもうと思えば出来たのだが、他の学年の見せ物になるのは御免だった。
「……円堂、あんまりしつこいと嫌いになるぞ」
バッと腕を振り払いながらそう言う風丸に、いよいよ訳が分からなくなる。
それと同時に怒りにも似た感情が沸き起こってきて。
「俺だって、」
お前のことなんか、大嫌いだ。
そう言おうと、した。
しかし、今まで嘘なんかついたことがない(特に、風丸には)口は、それ以上の言葉を発することはできなくて。
その事でやっと少し冷静になれた。
違うな。俺が言いたいのも、風丸が欲しいのも、こんな言葉じゃない。
その言葉は、俺でも分かるような単純なもの。
「愛してる」
「っ、何言って、」
ほらな、こっちが正解だ。
驚いてはいるものの、真っ赤になった風丸の顔がそれを証明していた。
(で、喧嘩の原因なんだっけ?)
(……もういいよ)
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