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□高揚感
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例えば、ずっと見ていたり、とか。
例えば、ふとした表情に心臓が跳ねたり、とか。
例えば、俺に向けられるその笑顔を独占したいと思ったり、とか。
俺は一緒にサッカーしているみんなのことが好きだ、けれども、上記のように感じるのは立向居にだけであり、いくらなんでも、立向居に対しての好きは他の人とは違うのだろうと、気付いてはいた。
ただ、それを認めてしまうには、俺と彼が同じ性別だという大きな問題があり、認めてしまっても、自分の気持ちはずっと押し込めていなければならないものだと思っていたのだ。
そう。だから。だからこそ。
立向居から大真面目な顔をして「好き」だなんて言われたときには嬉しいとかよりもびっくりとか唖然とかの方が大きかった訳で。
思わず、好きの意味を確かめて、同じだと分かっても尚、二、三度繰り返し同じ会話をしてしまった。
最終的には、
「俺も、立向居のこと好きだけどよー……その、男同士、だし」
そんなことを言ってしまった訳だが。
それを聞いた立向居は、一瞬驚いたかと思えば。
「っ、あはははは」
何がそんなに可笑しかったのか、盛大に笑い出した。
「……な、んで笑うんだよ!!」
「はは、だって俺、てっきり綱海さんならこう言うかと思って」
立向居は笑いすぎて目に溜まった涙を拭いながら続けた。
そんなこと、海の広さに比べたら、
にかっと笑いながら言われたそれに、初めて俺は、気付いたのだ。
散々人に言ってきたその言葉を、自分自身がすっかり忘れていたことに。
そこまで自分が悩んでいたと知り、思わず立向居につられて笑ってしまう。
そして、立向居にそう言われたことで、やっと、諸々のことに踏ん切りがついた。
元々、うじうじ悩むような性分でもないのだ。
そうして全てを受け入れてしまえば、今度は、好きという言葉が胸にすとんと落ちてくるようで、何故かは分からないけれど、それはとても心地いいものだった。
「俺、綱海さんのこと好きです」
かれこれもう一週間前になるその告白。
これだけたってもまだまるで昨日のことのように思い出せる。
いや、忘れられないと言うべきか。
毎日ふとした瞬間に思い出しては、いまだに顔が赤くなる。
照れとか、それを目一杯上回る嬉しさとかで。
「綱海さーん!!」
「ん、なんだ、立向居」
今まさに頭に思い描いていた彼に急に話しかけられ、驚いてしまう。
ギリギリ声が裏返るのは防げたが、やはり少し様子がおかしかったらしく「どうしたんですか」と聞かれてしまった。
「た、立向居こそ、どうしたんだよ」
「いやあの、もうすぐ休憩終わるんで」
「あ、そうか」
いたって普通に返したつもりだったのだが、立向居は不思議そうに首を傾げながら、見上げるようにして俺をじっと見てきた。
「綱海さん?」
言葉尻には出さないが、その目はなに考えてたんですかと、そう言っていた。
というか、そんなじっと見ないで欲しいんだが。
妙な気恥ずかしさに襲われ、ははと、誤魔化すように笑えばさらに不審な目で見られ、逆効果だったと理解した。
「なぁ、立向居」
「はい?」
何か誤魔化せる言葉がないかと考えを巡らせるも、立向居の顔を見ていたら、なんだか色々分からなくなってしまった。
思い浮かぶのはただ一つの言葉。
「好きだぜ」
我ながら唐突過ぎると思いつつも思わず口をついてその言葉は出てきていた。
立向居はやっぱり、びっくりしたようで、二、三度目を瞬かせたかと思えば、顔を真っ赤に染めた。
あ、なんかちょっと可愛いかも。
「俺も、綱海さんのこと、大好きです!!」
そう言って顔を綻ばせられれば、今度はこっちが真っ赤になる番で。
おまけとばかりに合わせられた唇が、どうしようもなく熱くて、それがどうしようもなく愛しかった。
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