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□夕日の中、君と
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夕日が射し込む教室。
さっきまでの高揚感が嘘みたいに、静かなそこにいるのは、私と圭ちゃんだけ。
罰ゲームの一貫で片付けをするために、二人残っていた。
私が寡黙になってしまう理由はひとつ。
緊張している。この、状況に。
圭ちゃんと私はまぁ一応、お付き合いしている身で。
しかし、今まで、何一つ恋人らしいことをしてこなかった。
デートもしたにはしたけれど、それもいつものお遊びと大差なかったし。
だから、いや、だからというわけでもないけれど、この状況は、期待してしまうには充分すぎるほどで。
「……魅音」
例えば、こんなたった一言でも私の体は面白いぐらいの反応を示してしまう。
思わず体を跳ねさせながら、なに、と聞き返せば、圭ちゃんは圭ちゃんで私の様子に驚いたようにしながら言葉を繋げた。
「いや……これ、オセロ、ひとつ足りなくって」
「え、嘘。……どこ行ったんだろ」
覗き込めば、確かにひとつ分、隙間が空いているようだった。
探すか?と、圭ちゃんが振り返る。
途端、私は、硬直。
私が圭ちゃんの手元のオセロ盤を覗き込んでいたせいで、圭ちゃんとの距離は物凄く縮まっていた。
そう、それこそ――。
私の思考が至るのと、それがされたのは、ほぼ同時だった。
閉じることを忘れた私の目の前に、圭ちゃんの顔。
それは、今までないくらいドアップの。
そう、それこそ――少し動けば、唇が触れ合うくらいの、距離。
動くことを忘れてしまったみたいにショートしてしまった私の脳みそは、意図せずして出たであろうリップ音によって再稼働した。
「……け、圭ちゃ、」
真っ赤になる私。
「う、わ、その、悪ぃ、つい、」
圭ちゃんも私と負けず劣らず真っ赤だった。
夕日のせい、だなんて誤魔化せないぐらいに。
「……いや、別に、謝ることでもないんだけど、さ」
「そう、か」
照れを紛らすように、はは、と乾いた笑いを漏らした。
なんだかな。
夕日の中でキス、なんて、ある意味理想のシチュエーションな筈なんだけど……現実は、思ったよりも。
理想とは正反対の、甘さが漂うというよりぎくしゃくした空気感に今度こそ本当に笑ってしまう。
圭ちゃんからしたらそれは面白くないようで、なんだかちょっとむくれ面。
「なんで笑うんだよ」
「あっは、圭ちゃんがへたれてるなーって思って」
「なんだそれ」
あぁ、でも。
「嬉しいよ」
私がそう言えば圭ちゃんは少し驚いたようだけれど、すぐにはにかんで。
不覚にも私の心臓が大きく音を立てた。
「魅音、好きだぜ」
「ふぇ!?な、何を、急に……今更」
「べっつにー?言いたかっただけだゼー」
茶化すように圭ちゃんがそう言うから、私もそれに便乗して圭ちゃんに殴りかかる(もちろん本気でじゃないけど)。
普段ならばここでの圭ちゃんの反応は、私に背を向けて逃げる。
私もそうされるつもりだったのだけれど。
予想に反して、圭ちゃんはその場から動かず、その上私の腕を引いてきた。
そうすれば、自然と私は圭ちゃんに抱き締められる形になるわけで。
いきなりの出来事に対処出来ないながらも心臓は正直に速さを上げる。
「……魅音」
さっきまでとは違う、いたって真剣な声に、私は息を飲んだ。
そして次に、その言葉を聞いてしまえば、嬉しさで心臓が壊れそうになるのは当たり前。
「愛してる」
この時私は、きっと私はこれのために生まれてきたんだ、なんて、大袈裟なことを大真面目に考えていた。
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