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□素直な言葉は言えないけれど
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宿題を忘れていた。いや、忘れていたというよりも、気付いていたがやらなかった。
それには色々と理由があったりなかったりするのだが、問題はそこではない。
問題は、僕と同じく宿題を忘れた了平と二人きりで教室掃除をしているこの現状。
宿題を忘れたのは僕たち二人だけではないのだが、僕たち以外の奴は明日提出しろと言われただけで、掃除を命じられたのは僕ら二人のみ。
僕と了平がきちんと宿題を出すことなどないと思っているのだろう。
それはあながち間違いではないが、しかし別に了平と二人じゃなくてもよかっただろうに。
というか、二人で教室掃除なんて、結局無理だろう。
「紅葉。サボるな」
「サボってなどいない」
「極限にサボっておるであろうが!!さっきからその机しか拭いていないぞ」
「……僕は結局真面目だからな。ピカピカにしなければ気がすまないのだ」
僕とは正反対に了平は嫌な顔ひとつせず机運びをたんたんとこなしている。
意外だな。了平は掃除好きではないと思っていたのだが。
「了平は、面倒じゃないのか?」
思ったままそう聞けば、了平は机を運んでいた手を止め僕を見てきた。
「……まぁ、面倒だとも思うが、存外悪くないとも思うぞ」
「何故だ?」
「そのお陰で、こうして紅葉といられるのだからな」
にかっと笑われ、途端、顔に熱が集まるのを感じる。
どうしてこいつはこうも恥ずかしいことを平然と言えるのだろうか。
……僕だって、了平といられて嬉しくないわけではない。
まぁ、一応、恋人なわけだし(別に今までそれらしいことはしたことないが)。
ただ、とてつもなく恥ずかしいだけで。
勝負事があれば二人きりでいたってなんら緊張などしないのに、僕はどうもこのような空気が苦手なようだ。
見回せばまだ拭き終わった机は半分ほど。
さすがにこのペースはまずいだろうか、そう思い机を拭くペースを上げた。
「そんな急がなくてもいいが」
その時、突然後ろから声が聞こえた。
誰の、なんてのは考えるまでもないことで、しかし、いつの間にか移動していたことに否応なしに驚いてしまう。
机運びはいつの間にやら終わっていた。
「いきなり声を掛けるな馬鹿!」
「なんだ、折角手伝ってやろうと思ったのに」
「余計なお世話だ」
恩着せがましいことをのたまう了平を無視して、作業を進める。
しかし、了平はそれを気にも留めずに更に話しかけてきた。
「素直に手伝って欲しいと言えばよいではないか」
「余計なお世話だと言っているだろう」
手伝って欲しいわけではない、それは本当だが、こうして軽口を叩くことしか出来ない自分に少々呆れてしまう。
そう思ってはいても、了平に対して素直になれるほど結局僕は大人じゃなかった。
それを察してくれるほど了平も鋭くはないし。
それでも、一緒にいられるだけで少しだけ嬉しくなる単純な自分に、また呆れてしまうのだった。
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