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□欲しいのは、
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もうかれこれ三日。

アスランはずっと部屋に籠って何かを作っている。

アスランが機械を弄るのが好きなことぐらい、昔からよく知っているし、そうしているときはろくに他のことをしなくなることだって知っている。

それこそ、ご飯すら食べなくなるぐらいに。

「……また残してる」

どうせ部屋から出てこないのは分かっていたから、わざわざ部屋まで持っていったというのに、見ればほとんど減っていないそれ。

正直、一切食べないと思っていたから少し驚いた。

とはいえ、減っているのもほんのちょっぴり、しかも好物のロールキャベツだけだ。

元からアスラン細っこいのに(彼に言わせれば僕の方が細っこいらしいけれど)、こんな生活していたらいつか栄養失調でぶっ倒れてもおかしくないと思うんだけど。


「アスラン?」

「んー」


声をかけてみると予想通りの生返事。

分かっていたとはいえ、少し苛立ってしまう。

機械を弄っているときのアスランは楽しそうで好きだけど、無視されるのは嫌い。

だから本当はあんまり二人の時にやってほしくないと思っていた。

機械に嫉妬するなんてのも変な話だから、口に出したことはないけれど。

くい、と服を引っ張ってみる。

最初はそれにすら気付かなかったようだけど、しばらくするとやっと振り返った。

「どうしたの?」

……やっぱり少し、痩せている。

僕以外の人が見てもきっと分からないような、そのくらい少しだけれど。

「ご飯。全然食べてないじゃないか」

「え。あぁ」

アスランは僕の手元を見てやっとそのことを思い出したみたいだった。

「ごめん、折角作ってくれたのに」

そう謝る彼はきっと僕が怒っている(そんなつもりはないけれどきっとそう見えてる)のを僕が作ったものを残されたのが不満だからだとでも思ったのだろう。

勘違いもいいところだ。

別に僕は作ったものを食べてくれなかったことが不満なわけじゃないのに。

「……そういうことじゃなくてさ」

「うん?」

「ただ、ちゃんと食べないと体壊すよってだけ」

「……心配してくれてる?」

くすりと笑いながらそう訊かれて、なんだか無性に腹がたった。

普通に考えて、ああ言ったら心配しているに決まっているのに、わざわざ聞いてくるところがどうしようもなく。

「別に……君が救急車に運ばれたりしたら着いていくのが面倒だなぁって思っただけだよ」

パッと思い付いた適当な言い訳を口上に並べ立て、食器を片そうと方向転換。

一歩踏み出した辺りで、首もとに心地よい重さがのし掛かった。

「全く、可愛くないな、キラは」

「別に可愛くなくて結構だよ。邪魔、どいて」

「まぁ、そんなところも好きだけどね」

甘いテノールが耳許を擽る。

僕は諦めてトレーを近くのテーブルに置いた。

身体を反転させれば、目の前にはアスランの顔。

どちらからともなく口付けを交わした。

そうすれば、それだけでさっきまでの不機嫌なんか溶けていくようだった。

唇が離れたのを合図にうっすらと瞼を上げれば、アスランと視線が通じあう。


「……やっと僕のこと見てくれた」

「何言ってるの?俺にはキラしか見えてないよ」

「それはちょっとサムい……っていうか嘘でしょ」

「本当だって。あれだってキラのために作ってるしね」


あれ、と言ってアスランが一瞥したのは、トリィと同じような鳥型のロボット。

トリィより落ち着いた色合いのそれは僕のために作っているものだってのは薄々は気付いていた。

「言っておくけど僕、そんなに鳥ほしい訳じゃないからね?」

「知ってる。でも、少しでもキラが寂しくないようにと思ってな」

僕とアスランは仕事柄会えない日が続くことがよくある。

寂しくないと言ったら嘘になるのだろう。

けど、だからといって彼の代わりがほしい訳じゃない。

……そりゃあ、今までだって、トリィに励まされたことがよくあるけど、それとこれとは別だ。

「アスランは、僕がトリィを君代わりにでもしてると思った?」

そう問えばアスランは一瞬逡巡するような仕草をした。

「それはそれで……少し嫌かも」

苦笑するようにして言ったアスラン。

「キラには俺だけを見ててほしいからね」

擽るように頭を撫でられ、なんとなく気恥ずかしい気分になる。

本当に恥ずかしいのはその動作よりセリフなのだけれど。

「……君ってよくそんなこと言えるよね」

いつもながらのクサいセリフに戸惑いつつ、ちらりと彼を見上げれば彼のエメラルドに映るのは僕だけ。

それがどうしようもなく嬉しくて。

少しでも長く、こうして彼の瞳に映っていられたらいいと、そう思った。










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