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□夕暮れに溶けるそれぞれの想い
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(豪風←円)



みたくない。みちゃいけない。

そんな風に頭の中ではぐるぐる警報が鳴っているのに俺は二人から目が離せなかった。

部室の裏で二人きりでいた風丸と豪炎寺。

うっかり目にしてしまったそれはまるで、綺麗な外国恋愛映画のワンシーンを見ているようで。

悔しいけど、お似合いだ、そういう風に思ってしまった。


風丸のことが好きだった。

ずっと、ずっと、前から。

もしかしたら初めて会ったその日からもう好きだったのかもしれない。

そんな邪な思いを数年間抱え続けたまま、俺はずっと風丸の隣にいた。

親友で幼なじみ、きっと誰よりも近い位置だった。

だから、俺は告白なんて出来ずに、その位置を甘んじて受け止めていた。

結局は、臆病なだけだったのだと思う。

親友よりも幼なじみよりも深い位置に誰かが入り込むなんて、考えもしなかった。

微かに聞こえる風丸の声は弾んでいて、豪炎寺も、こんなに喋れたんだってぐらい饒舌だ。

彼らが交わし合う笑みは、俺が見たことのないようなそれで、やっぱり、付き合っているのだとそう確信させるには十分すぎるほどだった。

本当なら、もっとショックな筈で。

けれどもあまりそう感じていないどころか、なんとなく腑に落ちた気さえする俺は、きっと彼らがお互いを好いていることに気付いていたのだろう。

覗き見する趣味はないけれど彼ら、いや、彼から目が離せないのはその綻ぶような笑顔を少しでも見ていたいと思ったから。

例え、それが俺に向けられたものじゃないとしても。



そうしているうちに、凝視していたせいだろうか、風丸よりも先に豪炎寺が俺に気付いてしまった。

円堂、と小さく漏らした豪炎寺に風丸も弾かれるようにこちらを見て、これまた弾かれるように立ち上がった。

「な……円堂、」

そう声に出してから、やっと反射的に立ち上がったのに気付いたのだろう、おずおずと座り直す風丸のちらりと見えた顔は真っ赤だった。

そんな風丸に一度柔らかい視線を投げ掛けてから豪炎寺は立ち上がり俺の近くにやって来る。

「……何か用か?」

「あー……いや、その、さ、部室に忘れものしちゃって。……で、ちょっと話し声が聞こえたから」

「で、覗き見か」

豪炎寺の言葉自体は少々キツいが、その声に滲んでいるのは不快とか苛立ちとかじゃなくって。

どちらかと言えば呆れている……いや、同情?

とにかく、そのような声だった。

「え……っと、豪炎寺たち、付き合ってる、よな?」

俺の中では既に事実となりつつあるそれを問うてみれば、豪炎寺は首を縦に振った。

それは、肯定の意。

「……すまない」

「なんで豪炎寺が謝るんだよ」

「だって、お前、」

豪炎寺はその先を言わなかった。

きっと、後ろにいる風丸に聞こえてしまうのを気にしてのことだろう。

こう言うのはなんだけれど、正直、その先を言わないでくれてほっとした。

その感情は、あまり他人に指摘されたくないものだったから。

「じゃ、俺、帰るよ」

回れ右をして、その場から離れる。

薄暗くなりかけた空の下のグラウンドには、誰もいない。

部活が終わったあとなのだからある意味当然だけれど。

真っ赤に照らされるグラウンドがいつになく寂しげに見えたのは、きっと気のせいではなかった。



―――――――――――

円堂との話を終えたらしい豪炎寺はゆっくりとこちらへ戻ってくる。

彼は俺の隣に腰を下ろすと、俺を抱き寄せた。

俺はそれにされるがままにされ、そうしたら、自然と豪炎寺にもたれ掛かるような体制になる。

す、と豪炎寺の手のひらが頭に触れた。

俺は、それに不思議なくらい安堵感を感じた。

「風丸」

「なんだ、豪炎寺」

「……お前は、」

その質問に、俺は目を瞬いた。

「俺のこと、好きか?」

思わず、笑みがこぼれた。

「なんだ、その今更な質問」

「……あぁ」

「すきだよ」

何かを悩むような豪炎寺にそう言えば、彼は驚いたように俺を見た。

俺からこういうことを言うなんて、そうそうないから当然かもしれない。

「……円堂に、何か言われたのか?」

「いや」

「気持ち悪いって、思われたかなぁ」

そしたら、嫌だな。

俺にとって円堂は、豪炎寺とは別の意味で大事な存在だった。

近くにいるのが当たり前だったせいか、あまり離れることを考えたことはないけれど、今だけは妙にリアルにその現実が迫っているような気がした。

「……それは、ないと思うぞ」

「え?」

「あいつは、男同士とかそんなことを気にするやつじゃないだろう」

そう言われ、確かになと頷く。

豪炎寺の言葉にはそのままだけじゃない意味が隠されているような気がした、けれど、俺はあえてそれを訊くことはしなかった。










―――――――――――
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