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□ここから始まる新しい生活
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ふぅ、と一息ついて周りを見回す。

大量にあったダンボールは大方片付け終えた。

どこか閑散とした室内に、色々家具買い足さなきゃな、そう呟けば、そうだなと返ってきた。

一人言のつもりだったんだけどと言えばまぁいいじゃないかと微笑む彼女は、今日はすこぶる機嫌がいい。

それがこの引っ越しによるものなのだと思えば、思いきってこれを決行した甲斐がある。

「念願のマイホームだなー」

「賃貸のアパートだけどな」

「いーんだよ、細かいことは」

小さい頃からずっと思い描いていた、澪との二人暮らし。

それが今、実現してるんだなぁ、なんて思えば、柄にもなく感傷に浸ってしまう。

まぁ、本当の理想はおっきな庭がある可愛くて広い一軒家だったんだけど、現実、大学生には無理な話だし。

二人暮らし出来るという事実だけでもう私は満足で、それに家が小さい方が澪と近くにいられると思えば、これも存外悪くない。

部屋は二部屋、リビングと寝室だけ。

収納スペースもそんなに広い訳じゃないからお互い私物は極力減らした。

私のマンガなんかは、三分の一ぐらいしか持ってきていないし。

ついでに言えば、ベッドは一つ。

ダブルほど広くもないけどシングルにしては広いような微妙なそれは、澪が選んだものだった。

私はてっきり二人別々の布団で寝るものと思っていたから、驚いたり嬉しかったりで。

「おわ、ベッドふかふかだな」

ポスンと真新しい匂いのするベッドにダイブする。

新品の羽毛布団は私の身体を柔らかく受け止めてくれて、それがとても心地よかった。

私がそうしていると、澪も同じようにベッドに飛び込んできた。

スプリングが小さく音をたてる。

寝返りをうって澪の方を向けば、彼女があんまり大人びた表情をしていたものだから、思わず心臓がどくりと音を立てた。

恥ずかしさやらなんやらを紛らすように襲っちまうぞーなんて言えば、そのままどうぞ?なんて返してくる。

付き合い始めてから数年。

最初の頃こそ、キスどころかハグでさえ真っ赤になっていた澪だけど、この頃は余裕を見せるようになってきた。

キスだけで殴られるようなことはなくなったからそれはいいことのはずなんだけど、何故だか澪に余裕をもたれると私の方が余裕をなくしたような感覚に陥ってしまう。

「律、」

「ん?」

「ありがとな」

「お礼言われることなんてしてないだろ」

「してくれてるよ、昔から、ずっと」

わけわかんねぇ、そう笑い飛ばせる雰囲気でもなく。

私はどういたしましての代わりに澪の額に一つ、軽く唇を落とした。




(これからもよろしくお願いします、なんつって)











2010*09*23



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