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□愛の定理
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「なぁ、チェレン」
ブラックの声が、じんじんと脳みそに響く。
その甘い声は、いつしかぼくの思考を溶かしてしまうような、そんな気がした。
「愛って、なんだと思う?」
それはもう愉快そうに唇を歪めた彼から出てきたのは、もう何度目になるかもわからないその言葉。
ぼくは、未だに彼がどんな答えを求めているか分からずにいる。
今まで気まぐれに答えてきた数々の言葉は、どれも彼のお気に召すものではなかったようで。
正直な話、別段正解を出そうとしようともしていないのだけれど。
「さぁね?ぼくにはわからないかな」
「チェレンは俺のこと愛してくれてないの?」
す、と絡められる指。
咎めるようなその言葉に滲むのは明らかな愉悦。
「それは、君が教えてくれるんだろう?」
ぼくも挑発するようにそう言えば、彼が満足そうに笑った。
繋がった手のひらが壁に押し付けられる。
ブラックに囲い込まれるるような形になるが、ぼくは抵抗しなかった。
ベッドに縫い付けられるよりも、この方が好きかもしれないとぼんやり思う。
何故かと訊かれれば、ぼくにも明確な理由はわからないが。
無理に理屈をつけるなら、彼と同じ目線でいられるから、なのかもしれないけれど、それがしっくりくるかと言えば、そうでもないのだ。
「そうだな、俺が、教えてあげる」
低く、甘い声は、ぼくを惑わす。
普段の日の光みたいな彼ももちろん好きだけど、こういう妖艶な笑みを称えた彼の方が、好きかな。
この顔知ってるのは、ぼくだけだから。
ふれあう唇。
熱いそれは、一瞬で離れることはなく、次第に深くなっていく。
絡まる舌の熱に、時折漏れる生々しい水音に、感じるのは少しの羞恥と快感。
「……っは」
「チェレン、なんかすごいエロい顔してる……可愛い」
ぺろり、と。
口許についたままのどちらのものかも判らない唾液を舐めとられる。
ぼくは上がった息を整えるのに必死でそれを止めることも出来なくて。
「愛してるよ」
甘い、甘い、言葉は。
まるでそれがこの世界の唯一の絶対だとでも言うように、ぼくの中に響いた。
2010*10*04
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