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□重ねる
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私がいつものように色々とメモをとっていた時のことだった。
ひょこりと私の顔を覗き込んできた木野先輩。
突然のその動作に少し驚きつつも、何ですか?と聞いておく。
「ねぇ、音無さんって目悪いの?」
じいっと私の目(正確には眼鏡だろう)を覗き込むようにして言った木野さんに、どちらかといえばいい方ですよ、と答える。
「じゃあどうして眼鏡……?」
「私、遠視なんですよ」
「遠視?」
「えぇ、まぁ、遠くの方が見えちゃうんです」
「あぁ、だから試合の時とかじゃなくて、文字書く時とかにかけてるんだ」
「なくても見えはしますけど、こっちの方が見やすいんで」
「へぇー」
これで話は終わり、なはずなのだけれど、木野先輩はまだ何か言いたげに私を見ていた。
そのキラキラした瞳がどことなく子供っぽくて、なんというか、私の母性本能がくすぐられるのを感じた。
そんな自分に苦笑しつつ、なんとなく彼女の言いたいことが分かったような気がしたので、ためしに、とそれを言ってみる。
「……眼鏡、かけてみますか?」
「いいの?」
途端、ぱぁっと顔を綻ばせる木野先輩。
私の予想はどうやら正解だったらしい。
トレードマークでもある赤ぶち眼鏡を外して渡せば、木野先輩は早速それをかけていた。
「あ、なんかぼやける」
「あんまり長くしてない方がいいですよ」
言いながら、内心少しだけ狼狽してしまう。
予想以上に似合っている、というか。
端的に言えば、ものすごく可愛い。
いや、元から可愛いのだけれど、ますます、って感じ。
そうして、気付いたときには、私は木野先輩にキスしていた。
まるで引き付けられるようにそうしていたものだから、木野先輩もだけれど、私も驚いてしまった。
「あ、ごめんなさい!」
頭を下げる。
これで嫌われるだなんてことは思わないけれど、なんだか謝らなければならない気がした。
しかし、当の木野先輩は、嫌な素振りは一切見せず。
「え、あぁ、ううん、別に」
ただ、照れたようにしていたから、私もそれにつられてしまう。
私たちはどちらからともなく顔を真っ赤にする。
そうなってしまえば、否応なしに二人の間に流れる気まずい雰囲気。
私は、恥ずかしさやらなんやらで、思わずうつむいた。
どうしよう、何言えばいいんだろう、そんなことだけが頭をぐるぐる回って、考えれば考えるほど言葉が見つからなくなる。
そんな中、二人の間の静寂を打ち破ったのは、木野先輩のほうだった。
「音無さん、」
「はいっ」
名前を呼ばれて思わず肩をびくつかせる。
木野先輩はそんなに緊張しないでよ、そう笑った。
緊張、っていうか。
思わず、反射的にしてしまっただけなんだけどな。
それをどうにか表したくて、少し顔を上げれば、微笑んだ木野さんと目が合った。
「……今度するときは、ちゃんと前に言ってくれたら嬉しいかな」
「、っ」
えへへ、と。
照れたように笑いながら言った木野先輩に、心臓が跳ねるのを感じた。
「……木野先輩、あの、」
「なぁに?」
彼女が真っ直ぐこちらを見てくるものだから、それだけでもう、息が詰まりそうになってしまう。
キス、させてください。言いたかったのはそれだったのだけれど、私はその言葉を飲み込んで、そっと私の手のひらをを彼女のそれに重ねた。
2010*09*29
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