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□もっと強く、深く
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ぼくを抱き締める彼の手は、ひたすらに優しい。
別段、それが不満な訳じゃあない。
けれど、あまり大切にされるのも、何かむず痒いな、と思うだけで。
「チェレン、なんか物足りなさそうな顔してるね」
それが顔に出ていたのだろう、くすりと笑いながら、Nはそう言った。
「……あぁ」
小さく頷けば、意味を誤解したのだろう、柔らかいキスが唇に落ちてきた。
それはそれで甘受けするけれど、ただ重ねるだけで終わったそれも、やっぱりむず痒くて。
「……何が不満なの?」
くるくるとぼくの髪を弄りながらそう問うてくるNに、答えるべき言葉は見つからず。
何が不満という訳じゃあ、ないんだ。
何がむず痒いのかも、物足りないのかも、分からなくて。
「……あぁ、そうか」
それなのにNは、一人で納得したように、手を打って。
「君は、もっと愛してほしいんだね」
「……そうなのかな」
見当違い、というわけではなさそうで。
もしかしたら、そうなのかもしれない。
大切にされるのも悪くはないけれど、もっと強く、深く、それこそ、痛いくらいに、愛してほしい。
ぼくを抱き締める彼の体に、抱きつく。
「……?」
「そうだね、もっと愛して、」
そう呟けば、やっと彼は意味を理解したようで。
ぼくに回された腕が強くなる。
少し苦しいくらいだったけれど、なんだかそれが心地よかった。
2010*10*06
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