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□キスで死ねたら
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死にたいな、そう彼は言った。

思い詰めたような素振りも見せずに、ただ、淡々と。

普段俺たちと会話するのと同じように。

チェレンは自分が世界から外れているものだとでも思っているみたいだ。

それに気付いたのは、冒険を初めてから。

それまで十何年も一緒にいたはずなのに、俺はそれに気付けなかった。

俺は、チェレンを支えてやることができないんだろうか。

できないんだろうな、と、思う。

だって、十年も一緒にいて、俺はチェレンと普通に接してきたつもりなのに、彼はそれでも暗い想いを心に抱えたままだったのだから。

俺にどうこうできることじゃあ、ない。

「……ごめんな、気付いてやれなくて」

「ブラック、お願いがあるんだ」

俺の言葉など彼の耳には入らないようで、チェレンはひとりでに口を開いた。

「なに」

「ぼくを、殺して」

相変わらず淡々と紡がれたその言葉に、何故だか驚きはしなかった。

「君になら、殺されてもいいって思うんだ」

どういう意味、そんなことは聞けなくて、俺はただ首を横に振った。

「できないよ」

「どうして?」

チェレンの細くて白い指が、俺の手に触れる。

滑らかなその感触に、ドクリと心臓が脈打った。

チェレンは俺の手のひらを自分の首元にあてる。

「ここを押さえるだけ、簡単だろう?」

そう言って妖艶な笑みを溢した彼にくらりとした。

きり、と。

少しだけそこに力をいれてみる。

彼のこくりと唾液を飲み込む動きが生々しく俺に伝わった。

頭が、ぼうっとする。

たった今触れているチェレンの冷たい首筋に、噛みついてみたくなる。

「、ブラック?」

劣情に流されるようにチェレンを押し倒した。

首筋を一舐めすれば、ひぅ、と喘ぎにも似た声が上がり。

唇に噛みつくようにして、それから舌を絡めとる。

「……ふ、ぅ」

チェレンが目を瞑るのが見てとれた。

そのまま深いキスを続ければ、次第にお互いの呼吸の感覚は短くなっていく。

普段ならこの辺りで胸板を叩いてくるはずのチェレンが、今日は俺の服を掴むだけで耐えていた。

俺は一度唇を離す。

そうすれば、あ、と小さく声を漏らした彼に、笑いかける。

「……窒息死でもするつもり?」

「……まぁ、そんなとこ」

キスで、窒息。

なんてロマンティック。

「案外、いいかもね」

「…………ブラック、お願い」


ころして。


そう紡ぎかけた唇に、俺は再びキスをした。











2010*10*08



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