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□ほんとの気持ちに気付くのは
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深い森が紅く染まってきたのと同時に、増えたのは五十鈴ちゃんからのスキンシップ。

どういう原理かは知らないが、涼しいとミツが効きにくいらしい。

もちろんカプセルも八朔スプレーも常備していた五十鈴ちゃんは真夏も僕にベッタリだったのだけれど。

あれでも一応押さえ目だったようだ。

「ひぃーろくんっ」

がばり、と抱きついてくる五十鈴ちゃん。

先生に自習だって言われた途端、これだし。

嬉しくないと言ったら嘘になる。

だけど、もう少し人目を気にしてほしいというのもまた本音で。

「五十鈴ちゃん?自習の意味分かってる?」

「え?自由時間、でしょ?」

そうあっさりと言われてしまえば少々反抗心も削がれてしまう。

逃げる理由もないっちゃあないのだけれど……とりあえず、恥ずかしい。

五十鈴ちゃんは見せつけたいのかもしれないけど、残念ながら僕の肝はそんなに据わっていない。

「……はぁ」

「まぁたため息ー。ヒロくんってボクにこうされるといっつもため息つくよね。幸せ逃げまくり」

「こうされてる時点で既に幸せなんて逃げてるようなものだけどね」

「う……それはさすがに傷つくぞ」

なんてこと、笑顔で僕の頬引っ張りながら言われてもさ。

そんでもってその笑顔にほだされそうになっている自分にまた、ため息。

先に惚れた方が負け、ってこういうことなのかな。

彼女は気付いていないのかもしれないけど、多分、最初に好きになったのは五十鈴ちゃんじゃなくて僕だった。

それを自覚するには、あまりに経験値が低すぎたから、気付くのが遅れてしまったのだけれど。

彼女をついつい甘やかしてしまいたくなるのも、きっとそのせい。

なんて、無理矢理みたいな理由を頭に浮かべて。

「あ、」

ふと、なにか気付いたように声を出す僕につられて、五十鈴ちゃんは窓の外を見た。

視線がそれた瞬間。

僕は彼女の額に軽いキスを落とした。

「……ひ、ヒロくんっ?!」

さっき僕が触れた箇所を押さえて真っ赤になる五十鈴ちゃんに、笑いかけて。

「……ね、これで我慢してくれない?」

本当は顔から火が出そうなくらい恥ずかしかったけど、全力で平静を装う。

どちらかというと五十鈴ちゃんの方が動転してる気もするけど。

「う、わかった……」

少し名残惜しげに離れた彼女に、とりあえずほっとした。

でも、なんでかな。

五十鈴ちゃんが離れたと同時に僕を襲ったのはちょっぴりの寂しさだった。






(ほんとはべったりで嬉しかった、だなんて)












2010*10*08


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