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□何も知らずに堕ちてしまえば
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「好きなの!」

唐突に言われたその言葉に、うまく反応できなかったのは人間として当然のことだろう。

さっきまでしていた話はポケモンの進化について。

そう、それで。

あまりに彼女が楽しそうに話していたから、適当な返事をしつつ話し半分で聞いていた。

だからほとんど耳に入ってはいなかったのだけれど、それにしたって、こんな身を乗り出して好き!だなんて言うようなこと話してもいなかったような。

「えー、と、何を」

「チェレンくんを」

「……誰が?」

「私が」

けろりと言われ、思わず押し黙る。

長年ベルと付き合ってきたから、変なところから話を持ってくる人には慣れているつもりだった、けれど。

流石のぼくでもこれには対応しにくかった。

「マコモさん、」

「なーに?」

「……正気ですか?」

そう訊けば、にこにこしていた表情を一転、ひっどーい、と頬をふくらます。

普段は大人ぶっているくせして、結構子供っぽいところもある。

……まぁ、知ってたけど。

というか、そもそも好き、って。

そりゃあ何度も会ったり話したことはあるけれど、どれもアララギ博士からの業務連絡のようなもので、お互いのこと詳しく知りもしないのに。

「そういうのって普通、もっと相手のこと知ってから言いませんか」

「あら、知ってるじゃない?名前、血液型、誕生日でしょ。あと、身長、体重!!……の二つは冗談だけど」

「それって知ってるっていうか……」

そんなプロフィールの基本事項なんて、知っている人たくさんいるし、普通相手のことを知るって内面的なことじゃないかなぁ。

と、そんなぼくの思いをよそに、何がヒートアップしてきたのか、がっと両手を掴まれた。

一瞬、その迫力に気圧されて、肩をびくつかせてしまう。

「マコモさん?」

「好きなの!」

「いや、それはもう分かりましたけど、」

「知らないことなんてこれから知っていけばいいじゃない?」

「……どんな理屈ですか」

「チェレンくんは、私のこと嫌いなの?」

「嫌いじゃあありません、けど、」

「ならいいじゃない」

そう言って安心しきったように笑う。

彼女の笑顔は花みたいだ。

まるで純粋に見えるそれに、また、ため息。

「ポケモンだって、ずうっと一緒にいれば愛着わいてくるでしょう?」

「……はぁ」

付き合ってしまえば、好きになる、そう言いたいのだろう、この人は。

純粋と言うよりただの無知だとも思えるそれ。

呆れ気味のぼくに気付いているのかいないのか、ぼくはまだはいとも言っていないのに、マコモさんは一人で想像を始めてしまっている。

「デートはどこがいいかしら……ベタに遊園地とかもありよね」

「はぁ」

「あら、そんな他人事みたいでどうするの」

「え……」

「楽しみだわ!ね、チェレンくん」

そう言って本当に嬉しそうに微笑むものだから、ぼくも諦めのような気になり。

そうですね、そう相づちをうちながら、もしかしたら案外悪いものでもないのかもしれないだなんて思い始めていた。











2010*10*16

タイトルは虚言症様から。





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