メイン3

□変えることの出来ないパターン
1ページ/1ページ


木々のざわめきに紛れて聞こえる火の音と、楽し気な笑い声。

キャンプに来ている俺たちの、食事の準備をしている時間。

本来なら俺と涼野もあそこにいるべきなのだが、他でもない涼野がテントから動かず、その上彼が俺の腕を掴んでいるものだから、俺まで動けずにいる。

別にずっと強い力で掴まれているわけではないから、痛くなるわけではないけれど、なんとなく居心地の悪いような気分にはなる。

「なー、涼野、行かねーの?」

「行かない」

「……俺、行ってきて、」

「駄目だよ」

言い終える前に切り返された。

そう言われることは予想がついていたから、別にイラッともしないけど。

やけに静かなテントの中、涼野がページを捲る音だけが異様に耳に響く。

時々煩わしそうにしながら右手だけで本を読む涼野に、思わず吹き出してしまった。

「んな読みにくいなら手離せばいいだろ」

「離したらどっか行くでしょ」

「……行かねーよ」

「ふぅん」

言いながらも涼野が俺の手を離す気配はない。

おそらく俺の言ったことを信用していないのだろう。

現に今さっきここから出ようとしていたのだから、仕方のないことかもしれないが。

「……暇なんだけど」

特にどうして欲しいわけでもないが、そんなことを呟いてみる。

暇なのは事実。

構って欲しいというのも少しはあった。

俺の言葉を受けた涼野は、ちらりとこちらを見て、何故だか呆れたように本を閉じる。

「何、私といるのが退屈だって?」

「……はぁ?」

ずい、と詰め寄られ、思わずすっとんきょうな声をあげてしまった。

暇だって言っただけなのに、何をどう曲解すればそうなるんだよ。

文句を言おうと口を開こうとした、その前に、口を塞がれた。

それはいわゆる、キス、で。

恋人という関係上、するの自体は初めてじゃない。

けれど、なんの前触れもなくされたのは初めてで、しかもここが家ではないという現実が尚更羞恥を煽った。


「……っ、バカ、かお前、ここ外だぞ」


咎めるようにそう言えば、涼野はわざとらしく回りを見回して。

「中じゃないか」

「そりゃあテントの中ではあるけど、」

「何が問題?」

涼しい顔で言われてしまえば、なんだかこちらが馬鹿らしくなってきてしまう。

俺がマイペースな涼野に流されてしまうのはいつものことで、それを嫌だと思っているのもいつものことで。

けれども俺が何を言おうとも、涼野はお構いなしなものだから、結局は俺がそれを甘受けしてしまうのだ。


「構って欲しかったんだろう?」


そう言って愉快そうに口許を歪められれば、腹立たしい反面、どきりともしてしまったり。

「ねぇ、晴矢、」

計算づくの笑顔で名前を呼ばれてしまえば、俺にはもう退路なんてない。

そうして再び落ちてきたキスは、やけに甘ったるいものだった。











2010*10*19



戻る
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ