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□俺たちはいつだって
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夕食時、普段ならもうすでに食卓についているはずのコーンの姿が見えなかった。

不思議に思ってデントに問い掛けてみれば、思い当たる節があるらしく、あぁ、と苦笑する。

「コーンなら、多分部屋だね」

「……呼んでこいよ」

「呼んだけど、出てこなかった」

「なんで」

「さぁ。へこんでるんじゃない?もしくは恥ずかしくて僕たちに会わせる顔がないとか思ってる」

そういうことか。

デントの言ったことには、俺も覚える節がある、というか、彼の予想は大体当たっているのだろう。

最近のコーンは、連敗続きだった。

別に俺たちだって負けることはもちろんあるし、それが何度か続くこともあったりするだろう。

そりゃああんまり負けられても困るのだが、別段そこまで気にしているつもりもなかった。

まぁ、これはあいつのプライドの問題なんだろうけど。

プライドの高いあいつにとって、何度も負けることは相当屈辱的なことだろう。

「俺、呼んでくる」

デントは俺がそう言うのを予想していたようで、やっぱりね、と微笑した。

「じゃあついでに謝っといてくれない?」

「……はぁ?」

「ジムリーダー辞めさせるなんて嘘だよ、って言っといて」

お願い、と両手を合わせるデントを思わずまじまじと見てしまう。

「……お前、なに言って」

「いやだから、連敗してへこんでるコーンが可愛くてつい意地悪言っちゃってさ。そうしたら僕の言ったこと真に受けて……部屋に引きこもっちゃった」

ちゃった、って。

原因はデントだったのかよ。

そりゃあデントにジムリーダー辞めさせるなんて言われたら、引きこもりもするよな。

また面倒なことをやらかしてくれた兄弟にため息をつきながらも、とりあえずコーンのところへ向かう。


白色のドアを数度ノックしてから、声をかける。

返事がないのは予想済み。

少しだけ罪悪感を感じながらも、取手に手をかけた。

「……!?」

ガタリ。

開けようとしたはずのドアは何かにぶつかって、止まった。

隙間からうかがい見れば、そこにあるはずのない家具たちがバリケードさながらに並べられている。

俺たちの部屋には鍵がないので他人の侵入を拒もうとするならこれが最も最適なのかも知れないが……まさかこんなことしているとまでは思わなかった。

「コーン?いんだろ」

「……いないです」

「いるじゃん。夕食出来たから来いって」

「コーンはいないから行けません」

「なに言ってんだよ」

「デントには家出したとでも言っておいてください。ていうかなんでドア開けてるんですか閉めて」

あーあ……こりゃ本格的にいじけモードだ。

一見すると俺たちの中で一番大人びているように見えるコーンだけど、ひょっとすると一番ガキかもしれない。

昔だったら戸惑ってしまっていただろうこの状況。

彼がこうなったときの対処法も、俺にはもう習得済みで。

わざとコーンに聞こえるようにため息をつく。

そして、ぱたりと扉を閉めた。

「……ポッド?」

ドア越しに声が聞こえるが、それには返事をしない。

そうすれば予想通り、数分もしないうちに背後からがたりと音がする。

しばらくしてその音が鳴りやめば、次には控えめに開かれるドア。


「っし、捕獲」


「、?!」

その瞬間を狙って、彼の体を抱き締める。

こうしないと、また逃げ出すだろうから。

「ポッド!!騙しましたね!!」

「騙してねーよ。別に向こう行くとも言ってないじゃん」

「コーンはポッドがいなくなったと思ったから……」

「寂しくなってドア開けたんだろ?」

「っ」

真っ赤になって押し黙るのは、肯定の印。

俺は出来るだけ優しくコーンの背中を撫でた。

「デントの言ったこと、冗談だから」

「……分かってますよ」

そんなこともわからないほど子供じゃありません、そう言ってコーンは俺の肩に頭を寄せた。

「……でも、今はそれが冗談でも、このまま負け続けてしまったら、それが本当になってしまうかもしれないと思って、」

コーンの肩が震え始める。

泣き声こそ出さないが、言葉も震えていた。

「デントに捨てられたら、って思ったら、怖くなって、」

「……あるわけねーだろ、んなこと」

そういえば、こんな風にコーンを慰めるのはいつぶりだろう。

昔はよく、年相応に俺たちも喧嘩をした。

一番弱いのはコーンだった。

優しい彼は、俺みたいに躊躇いなく兄弟を蹴りつけたりしなかったし、デントのように口喧嘩で勝てるような弁の立つやつでもなかったから。

結局いつも泣き出すのはコーンで、デントは意地はって謝らないものだから、俺が慰めるはめになるのだ。

それでもデントは謝らない代わりに、こっそりコーンの机にお菓子を置いていったりしていたけど。

「……デントがお前捨てるとかさ、あり得ねーだろ」

「でも、きっと怒ってました」

「怒ってもないって」

「じゃあ呆れて、」

ぐい、と、彼の顎に指をかけて俺の方を向かす。

そして、ちゅ、と軽いキス。

唇を離せば、コーン唇を押さえながらは信じられないというような目で俺を見た。

「な、今、なに」

「キス」

「なんで」

「いや、小さい頃これしたら元気出したなぁと」

「……そんなの、まだ何も知らなかった頃の話でしょう!!」

あぁ、そういえばこいつはあれを本気で親愛の意味だと思ってたんだった。

俺とデントは意味を知っていたのだが。

「こういうのは好きな人とするものですよ」

「……知ってるよ」

もいちど唇を重ね合わせる。

歯列をなぞり舌を差し込む。

「ふ、ぅ」

彼の舌を絡めとれば、くちゅりと淫靡な音がした。

「はぁ、」

「もう子供じゃねーんだよな」

「……何がしたいんですか」

「あいじょーひょーげん」

「だからそういうのは、」

「俺、コーンのこと、好きだけど?コーンだって色々言うわりに逃げねーじゃん」

「……それは……っ」

真っ赤になって俯くコーンに、やりすぎたかなと少し反省。

した矢先に、コーンがぼそりと何かを呟いた。

「……え、何か言った?」

「だから……嫌じゃ、なかった、です」

「……例えば、デントからされたら?」

そう問えば、一瞬言葉に詰まるコーン。

「……別に、多分嫌じゃないと思います」

「だと思った」

つまりは、そういうことなのだ。

俺たちが一緒にいるのは当たり前のことで、相手に対する大切さは、それこそ、例えば恋人に対するそれと大差ない。

「俺たちは誰が欠けてもダメなんだからさ、デントがお前を捨てることなんてないって」

「ん、」

さらさらした髪の毛をときながら言えば、やっと納得したようにコーンは小さく頷いた。










2010*10*20



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