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□今はまだ
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※幼少※



アスランは、女の子に、もてる。

何故かと言われれば、顔もいいし、頭もいいし、その上人見知りのせいであんまり仲良くない子にはいわゆる、えいぎょうすまいる、ってやつで対応するから、それもポイント高いんだろう。

本当のアスランは口うるさくって細かくて。

みんなが予想しているような人じゃないんだぞ、って言ってやりたいけど、到底信じてはもらえないだろう。

それはともかく。

アスランが好きな女の子たちも、さすがにアスラン本人に特攻したりはしない。

で、アスランについて聞こうとするとき、その対象になるのは、彼と一番仲がいい僕なわけで。

「アスラン君って、好きな子いるの?」

休み時間、アスランが先生に呼び出された途端、そう訊かれた。

一人になったらこうなるって分かってたから、やっぱりアスランと一緒に職員室行けばよかった。

そう思いながらもため息を飲み込んで質問に答える。

「えー、と、知らない」

「知らないの?」

「うん」

「仲よしなのに?」

「仲よくたって知らないことはあるよ」

そう言えば、ふーん、ともらしてこちらを見つめてくる。

まだ何かあるの?そう思って小さく首を傾げれば、その子は口を開いた。

「予想は?」

「へ?」

「アスラン君が好きな子の、予想」

誰が好きそうだなーとかは、あるでしょ。

そう言われても、わからないものはわからない。

正直に答えれば、またもや驚かれた。

「なんで?」

「なんで……って」

「キラ君、アスラン君と好きな子の話とかしないの?」

「そういえばしたことないなぁ……」

記憶を辿ってみてもよくよく考えればアスランと誰が好きだとか話した記憶はない。

そんなことをしている間に、チャイムが鳴ったので女の子は席に戻っていった。



その、帰り道。

今日聞かれたことがずっと頭に引っかかっていた僕は、意を決してアスランに聞いてみた。

「アスランってさ、好きな子、いる?」

できるだけなんでもないふうにしたつもりだけど、アスランは不思議そうな顔で僕を見た。

「どうしたの、急に」

「いや……べつに。ちょっと気になっただけ」

「……また女子になんか言われたの?」

「……んぅ、」

曖昧な返事をしてしまうのはアスランの言ったことが半分合ってて半分違うから。

女の子に言われたのも本当だけど、僕自身が気になるというのも少なからずあるし。

「べつに、いつもいつも俺のことキラが真面目に答えることないじゃない」

「だって、だからって無視なんかできないし」

ていうか、向こうの好意に気付いてて気付かないふりしてるアスランも、相当意地悪だよね。

……もしかして、好きな人、いるとか。

それで、みんなからの好意を無視してるんだ、きっと。

「ねぇ、アスランの好きな人って誰?」

「だから、もういいじゃないか、そういうの」

「なんでさ、気になるじゃん。誰にも言わないって約束するから!」

ぐい、とアスランの右手を引っ張ってそう言えば、アスランは呆れたようにため息をついた。

「言わないよ。引かれたらいやだもん」

「……いるんだ」

少し不機嫌に顔をそらしたアスランを見て、なぜだかちょっとびっくりした。

アスランに、好きな子、いるんだ。

さっきまでその前提で話していたのは僕なのに、なんだか急に胸がつきんとなった。

(……つきん?)

なんでだろう、なんで、心臓が痛くなるの、どうして。

「……キラ?」

心配そうに顔を覗き込まれ、とっさに笑顔を貼り付ける。

なんでもない、そう口にしながらもなんでもないわけないのは自分が一番わかっていた。

多分、胸が痛いのは、アスランに僕の知らない一面があることを、知ってしまったから。

だって、それ以外、思い付かない。

「……キラ、どうしたの」

「な、にが」

変、変だ。

苦しくって、声がうまく、でない。

「なにがって……」

戸惑ったようなアスラン。

おかしいな、僕いつも通りに笑ってるはずなのに。

確かめるためにぺたりと手のひらをほっぺにくっつける。

そうすれば湿った感覚がして、また、びっくりした。

「え、」

なんで僕、泣いてるんだろ。

「あす、らんっ」

「キラ、」

「なんで、っ僕……泣いて、るの」

自分でもなに言ってんのか、って感じだったけど、アスランはそのままぎゅうっと僕を抱き締めてくれた。

「キラ」

そして、優しく僕の名前を呼んで、背中をなでる。

昔から、そうされると、僕はすっかり安心してしまう。

安心して、落ち着く反面、また泣きたくもなって。

「、アスラン」

「キラ、どうしたの?」

「わかんない、けど、アスランに好きな子いるんだって知ったら、なんだか、急に」

「、」

アスランが息をのんだのが伝わってくる。


「ねぇ、キラ……期待しても、いいの?」


小さく聞こえた言葉。

よく意味が、分からなかった。

「へ?」

「……こっちの話」

そう言ってアスランは僕のおでこにキスをした。

母さんからもよくされるそれは、アスランがすると魔法になる。

それだけで、抱き締められたとき以上に、安心する。

「キラ、本当は俺、好きな子なんかいないよ」

「……え?」

「今は、キラが一緒にいてくれるだけで、十分だから」

「……うん」

なんでだろう。

アスランが好きな子がいないっていうのは嘘だと思うのに、僕がいればいいっていうのも本当に感じた。










2010*10*25


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