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□変わらないことひとつ
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考えたことなどなかったのだ。

ぼくと、彼と、ベルが一緒にいることが、当たり前なのだと当たり前のように思っていた。

途中進む道が違えど、最初の時にみんなで一緒に一歩を踏み出したように、みんなで一緒に帰ってくるものだと、思っていたんだ。

「ブラック、」

数メートル先の彼に声をかける。

昔は、このぐらいの距離何てことなかったのに、なのに。

今は、どんなに走っても、追い付けないような気さえする。

ぼくたちは、冒険を初めてからあまりに変わりすぎた。

成長というものかもしれない、けれど、どうしたってそんなにいい風には受け止められない。

もちろん冒険が無駄なことだったとも思わないが。

「ベルが、呼んでる。パーティーの準備出来たって」

パーティー、それはベルが企画したもの。

みんなの冒険が一段落したお祝いなのだと彼女は言った。

変わらないように見える中、まぁあたしは途中でやめちゃったんだけど、そう呟いたのが、妙に印象的で。

「……分かった。すぐ行く。チェレンは先行ってて」

「ダメだよ。一緒に来いって言われた」

「怒るかな」

「ん?」

「俺たちが来なかったら」

同じ調子で言葉を紡ぐ彼の、表情は読めない。

前だったら、別に顔見なくてもなに考えてるか分かったのにな。

「俺たち?俺、じゃなくて」

「そう。例えば、今ここで俺がチェレンの手を引いて、どっか行く、とか」

「怒るだろうね」

「そっか」

何が言いたいのか、全くといっていいほどわからない。

何か言いたいのかも、分からない。

ブラックは空に何を見ているのだろう。


「……行こうか」

空気を変えるようにそう言ってぼくの方を振り向いた彼は微笑んでいた。

自然に溢れたものではない、他人に対するようなそれに、胸が痛む。

どうせ、分からなくなるなら、彼の細かい表情の変化までも分からなくなればよかったのに。

「……よ」

「え?」

「……似合わないよ。君には」

「、何」

「作り物の、笑顔なんて」

そう言えばブラックは戸惑ったような、困ったような顔をした。

「そ?結構自信あったんだけど」

確かに、綺麗な笑みではあったかもしれない。

人見知りだった彼が、あんな風に他人に笑えるようになったんなら、それは喜ぶべきことなのかもしれない。

「でも、ぼくの前でする必要、ないだろ」

「……チェレン、」

名前を呼ばれる。

彼のもとへ歩いていけば、腕を引かれて。

抱き締められるような形になり、急に体温が上がるのが分かった。


「もし、他の何が変わっても、絶対に」


「ブラック?」


「俺がチェレンを好きなことは、変わらないから」


「っ」


安心してというように微笑まれ、ドキリとした。

今のは……偽物じゃない。

「……君は超能力でも使えるのかい?」

お礼を言うところだと分かっていても、つい口をついて出てしまうのは可愛いげのない悪態で。

「……怒るかな」

「なに?」

「例えば、今からチェレンとデートしに行ったら、ベル」

「殺されるだろうね」

「……誰が」

「君」

一瞬の沈黙の後、どちらからともなく笑い出す。

仕方ないね、そう言ってブラックは家の方へ歩き出した。










2010*10*30


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