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□会いたいの気持ち
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いつもながらハードすぎる仕事を片付けて(何で戦争がないと書類の量が増えるんだろう)、私用のパソコンを立ち上げる。

どうやらメールが来ていたようで、そこを開いたとたん、目眩がした。

受信ボックスに並んでいる未開封メールはほぼ恋人であるアスランからのもの。

「……何をこんなに」

試しに一番上のを開いてみれば、たった一言、会いたい、と。

嫌な予感を感じながらも他のを開く。

予想通り数個開いたすべてが、一言だった。

ニ十個ほど見たところで、流石にその作業を終了した。

会いたい、ならともかく、好きだの愛してるだの、真面目に見ていらんない。

「……はぁああ」

呆れ混じりに盛大なため息をつくのと同時に、ガチャリと扉が開いた。

「何してるんですかキラさん」

「あぁ、シンくん。何って、休憩。これは終わった」

言いながら顎で書類を指す。

ふーんと言いながらパラパラそれを眺めるシンくんに、パソコンの画面を向けた。

「ね、見てよこれ」

「なんです……か。……いや本当に、なんですかこれ」

「中見ていいよ」

「あー……」

戸惑いつつもマウスに手を伸ばすシンくん。

かちりとひとつクリックをして、中身を読んだのだろう。

不快そうに眉根を寄せた。

「気持ち悪いよね」

「……愛されてますね」

そう言うシンくんの顔は苦笑い。

そりゃああんなの見て引かない方がおかしいし、僕としては見たい反応が帰ってきて満足だ。

他のメールも見ているのかしばらくクリックをしていたシンくんだが、ふと問いかけてきた。

「で、返事どうすんですか?」

「返事?」

「メールの。……まさか放っておくつもりだったとか」

「あー……」

その、まさか。

ていうかあんなよく分からない短いメールに返信する必要あるのだろうか。

疑問に思ってシンくんに訊いてみれば、アスランさんは返事待ってるんじゃないですか、と。

「そうかなぁ……」

「いや、まぁ、知りませんけど」

とんとんと書類の端を揃えながら、シンくんは言った。

じゃ、とりあえずこれで、と立ち去った彼をドア越しに見送り、嘆息する。

画面を見れば、会いたいの文字。

(……疲れた)

もともと机に向かって何か書くのは苦手だったのだ。

今やっていることが性に合っているとは到底思えない。

だからといってやめるつもりはないけれど。

(……会いたい、)

アスランの文字を反芻したわけではない、唐突に溢れた本心に苦笑する。

疲れたとき、いつも思い出すのは、彼の顔で。

もし会えば、少しは元気出るかもなぁ、だなんてのろけたことを考える自分がいる。

「……」

電話に手を伸ばす。

それから、やっぱりメールでいいかなと思って少し躊躇った。

別に恥ずかしがることないじゃないか、そう自分に言い聞かせて、アスランに電話をした。


『……キラ?どうしたの』

「別にどうも」

素っ気ない言葉を返しても、彼は僕の考えていることが薄々は分かるようで。

『……声、聞きたくなった?』

図星をつかれ今更恥ずかしがることもなければ隠せることもないかと思い直す。

「声、聞きたいっていうか、会いたくなった」

『、そう』

驚いたように洩れるアスランの声。

それよりも後ろの喧騒が気になって訊ねかける。

「アスラン、今、外なの?」

『あー……いや……うん』

「浮気相手とデート中?」

『笑えない冗談はやめろよ』

少し怒った風なアスランに、思わず笑ってしまった。

僕からしたら、アスランが浮気だなんてありえないから、笑える冗談なんだけど。

「じゃあ、なんで外?」

『俺が散歩したらいけないのか?』

「……ふーん」

散歩。

アスランって一人で散歩とかする人だっけ?

「……老化?」

『はぁ?』

思わず洩れてしまった呟きに、アスランはすっとんきょうな声を上げた。

……流石にそれはないか。


「老化ね……なんでそうなるかなぁ、今ので」


「……は、?」

電話越しではない彼の声に、顔を上げる。

いつの間に入ってきたのか、扉の前には、アスラン。

「……なんで?」

「会いたくなったから」

微笑んで僕の元までやって来ると、挨拶代わりのつもりなのか、額に唇を落とされた。

「……びっくりした」

「そう?よかった」

「事前に連絡入れてよね」

「いいじゃないか。驚かせたかったんだ」

飄々とそう言うアスランに呆れつつも、嬉しかった。

名前を呼んで、じっと彼を見つめれば、ふわりとキスが落ちてくる。

触れるだけのそれは、くすぐったいような暖かいような変な感じで。

会いたかった、って言おうかと思ったけど、最早言葉なんか必要ない気もしたから、その文字は飲み込んだ。










2010*10*30


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