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□言葉の意味は
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わざわざ嘉音くんを部屋まで呼び出して、満面の笑みで言ってやる。

「トリックオアトリート!」

彼は不思議そうに首を傾げた。

大方私の用事がお茶を入れて欲しいとかそういうものだと思っていたのだろう。

現に、後ろにはティーセットの乗ったトレイが置かれている。

そこにお菓子がないのは不幸中の幸い、とでも言うべきか(なんかちょっと違う気もする)。

反応できずにいる嘉音くんに、もう一度。

「トリックオアトリート!」

「……あの、朱志香様」

「ん?」

「僕、今お菓子を所持していないのですが」

困ったように言う嘉音くんに、知ってる、と返せば、ますます困ったような風になった。

もっとも、表情に大きな変化はなくて、声とか微妙な雰囲気とかでそう感じ取っただけだけど。

「では、どうすれば」

「どうって、お菓子持ってないんなら悪戯、だろ?」

「悪戯、ですか?」

少し驚いたような嘉音くんに、今度は私が首を傾げる。

なんか、違う。

嘉音くんと私の間にズレがあるような気がして、まさかと思いながら問いかけた。

「嘉音くん、トリックオアトリート、の意味知ってる?」

「正確には分かりませんが、お菓子をください、というような事ですよね」

あぁ、やっぱり、と納得する。

紗音が知っていたから、てっきり嘉音くんも知っているものだと思っていたけれど、どうやらそうではないらしい。

まぁ真里亞が言ったときにはいつもお菓子が用意してあるから、悪戯するぞーとか言っているのを聞いたことはないんだろうな。

「トリックオアトリート、ってさ。『お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ』って意味なんだ」

「へぇ、そうなんですか。……それで、悪戯って何するんですか?」

「……それは考えてなかった」

悪戯するぞって言ったら狼狽えるだろうな、と思って。

私としたらその表情が見たかっただけだから、深く内容を考えていなかったのだけれど、もし悪戯できるんなら、してみたいかも。

「そうだな……何がいい?」

「僕の希望聞くんですか」

言われて確かにそれじゃあんまり悪戯にならないかと思い直す。

「……嘉音くん、ちょっと目瞑って」

私が嘉音くんに悪戯、っていうと、ひとつしか思い付かなくて。

目を閉じるように促すと、嘉音くんは素直に瞼を下ろした。

ドキドキ五月蝿い心臓をもて余して深呼吸。

ここまでお膳立てされて、行かなきゃ女じゃねーぜ!

なんて我ながら可笑しなことを考えて、嘉音くんの顔を見つめる。

羨ましいぐらいに綺麗なその顔を見て、また、心臓が高鳴る。

あとは勢いに任せて、上半身を前のめりにさせた。

そっと唇を重ねる。

「、」

一瞬のそれを離せば、嘉音くんは目を見開いた。

珍しく顔を真っ赤にする嘉音くんに、私も照れてしまう。

「朱志香様、」

「あ、はは。そんだけ驚いてくれればやったかいがあったぜ!」

「……今のが、悪戯、ですか?」

相変わらず顔を赤くしたまま、しかし不思議そうに問いかけてくる嘉音くんに頷いた。

「……そうですか」

何か言いたげに口ごもる嘉音くんに、どうしたのと訊けば。

「……いや……あの」

「うん?」

「悪戯、っていうものだからてっきり、もっと嫌なことされるのかと」

「あぁ」

まぁ、普段友達とするときはもっと罰ゲームさながらのことをするんだけど。

嘉音くんにそんなことするわけにもいかないし……と、そこまで考えたところでふと思い当たる。

「い、嫌じゃなかったの?」

「嫌……なわけないじゃないですか」

当然のようにそう返され、嬉しさで浮かれそうになる。

いや、そりゃ、嫌だとか言われるとも思っていなかったけれど(一応、付き合っているわけだし)。

えへへ、と恥ずかしさを紛らすために笑えば、控えめに降ってきた嘉音くんの声。

「朱志香様」

「へ?」

「えーと、トリックオアトリート、です」

お菓子を持っていないのは承知の上。

つまるところ、この言葉の意味は。




(……目、閉じてもらっていいですか?)
(う、うん)










2010*10*31


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