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□笑顔に溶ける思考
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ぐるぐる。
そんな風に悩んでいるのは、遠くから見ていたって丸わかりだ。
フィディオ、そう声をかけても、彼は気付かないようで、視線はサッカー雑誌から動かない。
仕方ないとばかりに、ベッドに寝転がっている彼の上に乗り上げる。
そうしたら彼はぐ、と変な声を出した。
僕が小柄じゃなかったら、これはもっと変な声になっていたんだろう。
「びっくりした……何、アンジェロ」
「お悩みキャプテンに天使からの救いの手を、みたいな」
ふざけてそう言うも、フィディオの方は茶化しもせずに、上の空な返事をしながら、僕の髪を、くるくる。
「何?」
「いやー、かわいいなー、って」
「……」
ボケッとした顔で言われたそれが、本音なのかはいまいちわからない。
なんにしても、僕からしたらフィディオのが可愛いと思うけど。
……まぁ、僕が女の子みたいな容姿をしているのも知ってはいる。
びょん、と、小さく彼の背中で跳ねた。
「うぐ、」
げほげほっ、噎せ込んだ彼は、身体を半回転。
それと同時に僕も彼の背中から落とされた。
「……なにするんだよ」
「あー、ごめん、苦しかった?」
わざと見当違いな答えを返せば、ムッとした顔をしてくるフィディオ。
分かりやすいったらないんだから。
「冗談。フィディオが怖い顔してたからからかっただけ」
「……怖い顔?」
自覚がなかったのだろうか、ぐいぐい自分の頬を引っ張るフィディオが面白くて思わず笑えば、笑うなよ、と照れたように怒られた。
「わかるよ」
仰向けになった彼に、抱きつく。
抱き締めることのできないこの体格差が、たまらなく煩わしい。
「不安なんでしょ?」
彼が小さく頷くのがわかった。
明日から、FFIの本選。
予選とはまた一風違った試合になるだろうことは目に見えてる。
今まで勝ち進んできたからって、同じように行くはずは、ない。
それを、キャプテン代理として背負うだなんて、とてつもないプレッシャーだろう。
「……勝てるかな」
ぽつりと溢れたその声に、彼の身体を小突いた。
「勝てるかな、じゃなくて、絶対勝つ!だよ」
「うー……」
「そんなんじゃ勝てるもんも勝てないんだから」
しっかりしてよね、キャプテン。
そう言えば、手厳しいねと苦笑い。
弱気になるのも、わかるんだけど。
「今までだって勝ってきたんだ。大丈夫だよ」
さっき今までとは違う、そう思ったのは自分なのに、我ながらなかなか無責任な励ましだ。
それでも、フィディオはうん、と微笑んでくれた。
「頑張るよ」
「ん、」
ありがと、と髪に触れる手のひらがくすぐったい。
「ところでアンジェロ」
「何?」
「いつまで乗っかってるつもりなんだ?」
さっき彼の上に乗り上げて、そのまま。
僕はフィディオの上に座っていた。
座っていた足を崩して、彼の上にうつ伏せになる。
「こうすると、押し倒してるみたいじゃない?」
フィディオの頬を撫でながらそう言えば、彼は顔を真っ赤にさせた。
「……アンジェロ、ふざけてないで」
「いいじゃないか。フィディオ最近構ってくれないし」
その分、練習頑張ってるのも知ってるけど。
やっぱり寂しくなったり、もしかしたら好きじゃないのかなとか思ったりしてしまったりもするわけで。
「試合、終わったらいくらでも遊べるだろ」
「何ヵ月後の話なんだよ、それ」
「今はこんなことしてる場合じゃないんだよ」
「少しは息抜きした方がいいと思うけど」
「だけどっ、」
こんなこと、って言われたのが少しムカついたのと、文句ばっかり聞くのが嫌になって、フィディオの口をキスでふさいだ。
久々のその感触に、いやでも気分がよくなってしまう。
唇を離すときに、おまけとばかりにぺろりと一舐め。
元々赤かった顔が更に真っ赤になる。
「かーわい」
「……」
「物足りないの?」
可愛いと言われるのが気に食わないのであろう彼に、的はずれな質問をすれば、ムッとしたようにこちらを睨み上げてきた。
単純。
わかりやすい反応を返して来る彼に、出てくるのはその単語。
口に出したら、それこそ、本当に怒り出してしまいそうだから黙ってるけど。
「……励ましてくれたんだよね」
「は?」
「今ので、少し、心緩んだ」
彼は心どころか表情まで緩んだようにへにゃりと笑った。
……キスの方はそういうつもりでしたんじゃないんだけど。
まぁ、それで彼の元気が出たんなら結果オーライってことで、わざわざ言ってやることもないだろう。
(……ところで、続き、いい?)
(明日も練習なんですけど)
2010*11*04
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