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□そのキスに流されて
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秋も深まってきた季節。

あたしがそろそろ長袖一枚じゃ寒いなぁなどと思っていても、トウコは相変わらずのタンクトップ姿。

元気なのは結構だけれど、風邪をひいたりしないかと、恋人としては不安になるわけで。

「せめて上着一枚ぐらい着たら?」

「嫌だよ。暑いじゃない」

家の中、あたしの本棚を(勝手に)漁っていた彼女は振り向いた。

高い位置で結わえた髪が元気に跳ねる。

白いうなじがちらりと見え、一瞬どきりとしたけれど、それもすぐに治まった。

「もうすぐ冬だよう、寒いって」

「なぁにチェレンみたいなこと言ってるの」

こつんと頭を雑誌で叩かれる。

決して痛くはないそれに、優しいなあなんて可笑しなことを考えながら、彼女の隣に座った。

「……なんかこの雑誌見たことあるような、そうじゃないような」

表紙を眺めながら頭を捻る彼女に言ってやる。

「ブラックから借りたから」

「あぁ」

ブラックとはトウコの双子の弟だ。

つまり、あたしの幼馴染みの一人。

双子とは言っても、顔はともかく性格は全然似ていない。

どちらかというとブラックはおとなしい方だ。

「……ふーん、あの子こういうの読むんだ」

「何で知らないの?」

「弟の本棚なんて勝手に見れるわけないでしょ」

エロ本とか出てきたらどうするの、って。

あり得ないと思うけどなぁ。

と、そこであたしは話を逸らされたのだと気付く。

「……上着、持ってないの?」

「何でそこに戻るかなぁ」

「風邪ひいたらどうするの」

「私が風邪ひくことなんてそうそうないって。ほら、よく言うじゃない?馬鹿は風邪ひかない、って」

朗らかに笑った彼女に、ため息。

そこで開き直るのもどうなんだろう。

それに、あたしからしたら、トウコって結構頭いい。

確かに勉強はダメだけれど、人間として、っていうか。

「風邪ひいたら遊べなくなるよう」

最終手段。

瞳を潤ませそう言った。

彼女がこの顔に弱いのを、あたしは知っている。

ところがトウコは。

「遊べなくたって、お見舞いに来てくれるでしょう?」

人差し指をあたしの口に押しあて、クスリと笑いながら、言う。

いつのまにやらあたしの戦術は読まれてしまうようになっていたみたいだ。

楽しそうに笑う彼女はさらにあたしに抱き付いてきた。

あたしは服を着ているから素肌同士触れ合うわけではないけれど、やっぱり心臓が跳ねた。

「それにね」

――寒くたって、こうしていれば暖かいじゃん。

今度は、跳ねるというより締め付けられる感覚。

こんな可愛いこと言われたら怒れるはずもない。

それでもまだ何か言おうかと渋っていると、仕方ないなぁという声と共にキスが落ちてきた。

仕方ないって、それはこっちのセリフだ。


(今日はこれで諦めてあげる)
(……ベルって私に甘いよね)











2010*11*16


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