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□響く音
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厳かな音色が街に鳴り響く。

耳に心地のよいその音を聴いていたら、騒々しい足音も混じってきた。

誰のものか、なんて大体の予想はつく。

彼女がここへ足を踏み入れた頃を見計らって声を掛けた。

「……何、そんなに急いでるの」

「だって、カミツレちゃんの音がしたから!」

答えになっているのか微妙なことを言いながら、えへへと笑いながらフウロは駆けてきた。

その勢いのまま抱きつかれ、少しだけ体制がぐらつく。

そんな彼女に愛らしさを感じながら聞き返した。

「私の音?」

「そうよ。カミツレちゃんの音」

す、と私から身体を話すと。目を細めて彼女は語った。

「聞いていると、胸が切なくなって、それから温かくなって。そんでもって。冷たく聞こえるけれど何処と無く優しさが感じられるような、そんな音色」

抽象的な言葉を並べながらうっとりとそういう彼女に、私は首を傾げた。

彼女は、音で人の内面が分かるという。

しかし、私が聞いても鐘の音はどれも同じものでしかなかった。

「フウロは目だけじゃなくて耳もいいのね」

「そういうことじゃないよ!感じるの」

ぷくりと頬を膨らませた彼女は、たん、と鐘の前に跳ねるようにして立つ。

鮮やかな色合いの髪がふわりと舞う。

彼女は一度振り向くと、にこりと笑って、言った。

「私がならすから、よーく聞いててね!」

彼女が鐘を鳴らす。

つい数分前に私がしたのと同じ様に、その音は街中に響いた。

(……違う、かしら)

やはり私には同じ音色に聞こえる。

強いて言うならば彼女の方が澄んだ音色のような気もするが、それも気のせいだと言われてしまえば異存のないレベルで。

「違わないと思うけど」

「少しも?」

「ほんのちょっぴりしか」

言いながら、指で限りなく小さい幅を作って彼女に見せる。

自分でやりながら、へこむかなと、そう思っていたのだけれど。

それどころか彼女は瞳を輝かせた。

「分かったのね!」

「ほんのちょっぴりよ。少し心が暖かくなるとか、そのぐらい」

「充分だと思うけどなぁ」

何がいけないんだろうね、とポケモンにするように鐘に話しかける。

実際、彼女にとったらそれと等しいものなのだろう。

ポケモンに嫉妬することはたまにあっても、流石に、鐘に嫉妬はしないけれど。

彼女を見ていると、普段の張り詰めていた心が緩むのを感じる。

それは……そう。

この鐘の音を聞いたときと同じだ。

「多分……この鐘の音自体は好きなのよね」

そう洩らせばありがと、ととまるで自分のことのように彼女は微笑んだ。

別に貴女に言ったんじゃないわ、そう言えば分かってるよと頬を膨らます彼女はなかなか可愛らしい。

「カミツレちゃん」

彼女は何か面白いことを思い付いたとでも言うように私を呼んだ。

「何?」

「あのさ、もし私がこれで呼んだら来てくれる?」

「……聞こえたらね」

フキヨセからライモンまでなんて到底音が届き得ないと思うけれど。


(あの澄んだ音色ならもしかすると、とも少し思った)











2010*12*09


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