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□ふたりを繋ぐ花
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花だったら、何がすき?

そう問いかけたのに深い理由はなかった。

何か会話がしたくて、もっと彼女のことを知りたくて。

「急に、何よ」

だから、そう聞かれると困ってしまうのだ。

何ってわけでもないんだけど、いいから。

そう答えを催促すれば、夏未さんは、そうねぇ、と呟いた。

なんだかんだ、答えてはくれるらしい。

「あんまり考えたことないのだけれど……」

「なんとなくでいいんだよ。そうだな、花って聞くと、何が出てくる?」

悩んでいるようだったので、少しだけ質問を変えてみる。

普通、真っ先に思い浮かぶ花が嫌いな花ということはないだろうから。

夏未さんはもう一度逡巡したものの、今度はあまり考え込まずに口を開いた。

「向日葵……かしらね」

「向日葵?」

「あら、意外だった?」

「少しね」

夏未さんはもっと綺麗な感じの、大人しい花が好きなのかと思った。

例えば……っていうと、上手く出て来ないのだけど。

それにしても、向日葵か。

一度、夏未さんから目を離して、彼女と向日葵が並んだ姿を想像してみた。

……思ったより、様になるかな。

まさに、避暑地に来たお嬢様って感じだ。

太陽みたいな花の中に立つ夏未さん。

想像だけでも眩しくて、目がくらんだ。

太陽、ふと、その考えが頭の隅に引っかかる。

「キャプテンって、さ。太陽みたいだよね」

なんとはなしに浮かんだこと。

口に出してみれば、夏未さんは不思議そうな顔をしたものの、直ぐにいつもの表情に戻り、頷いた。

「そうね。円堂くんは、太陽みたいな人だわ」

「向日葵も、太陽みたいだ」

「……吹雪くん」

彼女は呆れ顔で僕の名前を呼んだ。

夏未さんが好きなのは、向日葵で。

そこから連想されるキャプテンの事もまた、夏未さんは好きなんじゃないか、なんて。

僕がそんな事を考えているのに気がついたのだろう。

夏未さんは僕に向き直ると、今度は少し怒った様な声色で、僕の事を呼んだ。

「吹雪くん」

「えぇっと……なぁに?」

「馬鹿な事、言わないでちょうだい」

「へ?」

疑問系で返す僕に、夏未さんは煩わしそうに息を吐いた。

「私が付き合ってるのは、貴方でしょう?円堂くんじゃないわ」

「そう……だね」

だけど、だからって不安がないわけじゃない。

僕は夏未さんをずっと見ていたから。

彼女がどんなにキャプテンの事を好きだったか、よく知っている。

その想いは、そう簡単には消えるはずがないと、そう思うのだ。

勿論夏未さんは、好きでもない人付き合う様なタイプではないから、今は僕の事を好きでいてくれてるのだろうけど。

なんと言うべきか分からなくて黙り込む僕と、こちらもなんだか黙ってしまった夏未さん。

暫くの間、静寂が僕らを包む。

先に口を開いたのは、夏未さんだった。

「……向日葵、なのよ。私たち」

「?」

「向日葵は、太陽をずっと追いかけるわ。私たちも、そう。円堂くんという太陽を、追いかけてる」

その言葉に、今までの事を思い出す。

宇宙人との戦いの時。

みんなが集まったのは、きっと円堂くんがいたからだ。

そして僕も……キャプテンに惹かれて、ここに来た。

それは勿論、夏未さんに惹かれるのとは、また別の感情だけれど。

「、そういうこと、なんだね」

「心配しなくたって、私が好きなのは、吹雪くんよ」

上から見るようにそう言いながらも、夏未さんの顔は少しだけ赤かった。

普段はあまり、こういうのを口に出さない人なのだ。

それが、今、こうして好意を伝えてくれている。

もしかしなくても、僕の不安を消すため、だろう。

「ありがとう。夏未さん」

「な、べ、別に、お礼なんて、」

「僕も、夏未さんだけを大好きだよ」

「ーーっ」

得意の笑顔を浮かべてそう言えば。

今度こそ本当に真っ赤になって、彼女は俯いてしまった。



(夏になったら、二人で向日葵を見に行こうか)












2011*04*01




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