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□心を焦がすほど
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油断した。

目の前ですっかり眠りこけるキラに、視線をやりながらそう考える。

今日の仕事終わりにカガリから貰った酒瓶丸々一本。

普段のキラなら、そのくらい平然と飲んでしまうから、別に気にしなかったのだけれど、それがまずかった。

よく思い返してみれば、少しおかしかったんだ。

今日は異様に愚痴が多いな、なんて感じていた。

それは、酔った証拠に他ならなくて。

実際、色々と疲れていたんだろう。

だから、普段なら平気な量で酔ってしまい。

(これ、だもんな)

糸が切れたように、急に倒れたものだから一瞬焦ったが、よく見れば、眠っているだけだった。

こりゃ二日酔い確定だな。

明日は仕事にならないことだろう。

「はぁ、仕方ない。とりあえず運ぶか」

こんなとこで寝かす訳にもいかないしな。

軽い身体に不安を覚えながら、キラをおぶって寝室へ向かった。

ぽすん、とキラをベッドに寝かせると、反動でスプリングが軽く音を立てた。

これで一応は平気だろう。

さっき出したままの食器を片付けてしまおうと思い、一度キラの頬を撫でてから、立ち上がる。

いざリビングへ向かおうとした時に、くい、とシャツの裾を引っ張られた。

振り返って見れば、うっすらと瞳を覗かせたキラがこちらを見上げている。

「あ、ごめん。目、醒ましちゃった?水とか持ってこようか?」

謝罪から質問、質問。

そのどれにもキラは答えずに、俺を強く引いた。

仕方なしに、ベッドに座る。

「だめ、こっち」

ぽつりと呟いたキラ。

なんとなく言葉がたどたどしいのは、アルコールが抜けていないからなのだろう。

こっち、と指差した先はベッドの中。

一緒に寝たいということならそれは構わないのだが、せめて着替えるくらいさせて欲しい。

それを口に出してみれば、再びだめ、と。

こうなってしまえばキラが俺の言うことを聞きはしないだろうから、俺は諦めて、ベッドに潜り込んだ。

隣り合わせになった途端、キラは俺に抱きついてきた。

動くと鼻に届いて来る酒の匂い。

「あすらん、」

ゆっくりと名前を呼ばれる。

いつになったら酔いが醒めることやら。

まあどうせ暫くしたら眠るだろう。

ぼんやりとそんな事を考えていると、再びキラに名前を呼ばれた。

「もう、どこ見てるのさ」

むくれっつらでそう言うキラの表情は、昔を思い出させるものだった。

こいつは、酔っ払っているんだ。

その事で頭がいっぱいで、どう反応すればいいのか分からない。

動かない俺に、キラは、ちゅ、と。

小さな音が何故か酷く客観的に耳に入ってきて、それから、キスをされたのだと気がついた。

そこからさらに、二、三拍。

「、な、え?」

それに感じる、驚き。

よっぽどの事がなければ、キラからキスなんて、そこまで考えてから、いやいやこいつは酔っていたんだと、一人問答。

ぐるぐる頭を悩ませる俺に、すり寄って来るキラ。

「アスラン……好き」

「き、ら」

「今、君とこうしていられる事が、すごく、嬉しい。嬉しいよ」

キラのその呟きは、まるで独り言のようで。

酔っているせいでこんな事を言っているんだろうな、頭ではそう考えながらも、身体は勝手に動いていた。

キラに回した手を強くして、その唇に口付ける。

舌を絡めれば、お酒の残り香が俺の舌を痺れさせた。

くらくらする。

アルコールを含んだ深いキスは、次第に思考を鈍らせていった。

「ん、んぅ」

「、は」

唇を離せば、銀の糸が俺たちを繋ぐ。

ぷつりと途切れるそれをぼうっと眺めた。

「アス、ラン?」

戸惑った様なキラの声。

見れば、キラは顔を真っ赤にさせていた。

さっきまで溶けたようだった瞳は、いつもの彼のものに戻りつつある。

ちょっと残念かも、そう思いながら、キラの顔に触れた。

キラはこそばゆそうに少しだけ身を捩るも、ただただ俺を見上げて。

「……恥ずかしい」

「何が?」

「変な事、言ったもん。うん。変な事」

「変な事、なぁ」

キラの言葉を反芻する。

「俺は、嬉しかったけど」

あれがキラの本音である事くらい、俺にも分かる。

普段は恥ずかしくて言えない、だけなんだって。

キラは、それでもまだ顔を真っ赤にさせて唸っていた。

「うー……あんなこと言うなんて、ていうかなんで僕今酔いが飛んじゃったんだ…… 」

「何ぶつくさ言ってるの。俺が嬉しかったんだからいいだろ。普段は全然言ってくれないんだし」

「う、うぅ……。別に言えないわけじゃないけど、正直言ってどうすんだって気も、ってアスラン?期待を込めた目でこっち見ないでよ」

キラが戸惑った瞳でこちらを見ているが、そんな事気にならない。

俺はキラの耳元で囁いた。

「ねぇ、俺、本当に嬉しかったんだけど」

「だからなんだっての」

「でも、酔ってない状態のキラから聞いた方が、もっと嬉しい」

「、」

これでもかというくらいに顔を真っ赤にさせたキラは、ぐ、と俺の胸に顔を押し付けて。

こほん、とひとつ咳払いをすると少し大きめの声で呟いた。


「アスランのこと、好き。昔からずっと、だいすき」


「っ、」

言わせたのは、俺だっていうのに。

それに俺はなんだか涙が出そうになる。

嬉しくて、仕方ない。

キラのことが、好きで好きで、愛おしくて、仕方ない。

ぎゅうと力強く抱き締めると、むぐ、とキラが声を上げた。

「馬鹿、苦しいんだけど」

「我慢してくれ」

「……もう」

今は、俺の顔、見られたくなかった。

泣きそうで、笑いそうな、変な顔をしているに決まっているから。














タイトルは星になった、涙屑様より


2011*04*05




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