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俺が元いた場所に近づけば近づくほど、胸が苦しくなっていく様だった。

拒絶されるのではないかという不安が、じわじわと俺を蝕んでいく。

(こればっかりだ、)

思い立ってすぐ行動して、次第に不安になっていく。

手を開いて、そこを見つめる。

大丈夫。

これにだって、後悔は、していない。

薄い膜がなくなったそこは、すでに俺に馴染んでいた。

そんなことを考えながら歩いていると、次第に河原が見えてきた。

崖の上から、そうっとそこを覗き見る。

……いた。

一瞬、息がつまる様な、そんな感覚に襲われる。

宮坂は、水辺に座って、ただ水面を蹴っていた。

彼がいるその場所は、俺のお気に入りだった場所で。

俺は、脇にある細い階段から下に降りた。

「みや、さか」

名前を呼んだ声は、自分でも驚くぐらいに乾いていた。

宮坂は、一度肩を震わせると、ゆっくりと振り返った。

「風丸、さん」

宮坂の顔に浮かんでいたのは、複雑そうな色をした、笑顔。

彼は一度俺の手元に視線を落とすと、やっぱり、そう呟いた。

「風丸さん、触ってもいいですか?」

そんなこと、今までならわざわざ聞いたりしなかったのに。

おずおずと近づいて来る宮坂に、ほんの少しの寂しさを感じた。

離れたのは、俺なのに。

頷けば、宮坂はそろそろと俺の手に触れた。

冷たい。

前に豪炎寺に抱きついた時には、逆の事を感じた。

あの時の豪炎寺の身体は、熱くて。

違う生き物、なんだよなぁ、頭のすみでそう考えていた。

それが今は真逆の立場。

俺に触れた宮坂は、小さく笑い声を上げた。

「はは、……あったかいや」

そう呟いた次の瞬間、宮坂の瞳から溢れ出した、涙。

今まで我慢していたのだろう。

それは、止まる事のないように、流れ続けた。

「、っ、」

宮坂のしゃくりあげる声を聞く度に、胸の奥が締め付けられる様に痛くなった。

「ごめん、宮坂」

「謝らないで、下さいよ、っ‼風丸さんは、自分で、決めたんでしょう?後悔は、してないんですよね?」

「あぁ」

「っ、だったら……それを、謝ったり、しないで下さい」

宮坂は、しゃくりあげながらも、強く、強く、そう言った。

辛い、筈なのに。

自分の幸せを手にするために、宮坂から離れた俺を、それでも想ってくれている。

それは、正直に嬉しくて、同時に悲しくもなった。

どうせなら、嫌いになってくれたら、よかったのに。

そんな事を考える俺は、どこまでも自分勝手だった。

「俺。宮坂みたいなのと一緒に暮らせてよかった」

宮坂に出会えて、よかった。

最後のお世辞なんかでは絶対になく、本気で、そう思った。

宮坂は俺を見上げると、とうとう大声を上げて泣き出してしまった。

俺はそれに戸惑って。

オロオロしていると、宮坂が絞り出す様な声で、言った。

「そんなの、今、聞きたくなかった、」

「……」

「せっかく、諦めようと、忘れようと、してたのに……っ、最後にそんなこと言うなんて、」

ずるいです。

そこからは、同じ様な事を繰り返し。

宮坂の俺を掴む手は、次第に強くなっていって。

離れ難くなっているのだと、わかった。

それでも俺は、宮坂と、別れなければいけない。

きっちりと、別れを言うって、そのために俺はここまで来たのだから。

















2011*04*09




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