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□アンラッキーデイズ
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ついてないな。

吐いたため息はうららかな陽気に消えた。

怪我をしていた野生のポケモンがいたから、そいつの手当てをしようと近付いた。

傷の様子を見るに、おそらく怪我はしたばかりだったのだろう。

もしかしたら、人間に傷つけられたのかもしれない。

近付いたのはいいものの、激しく警戒されていて、触れることもままならなかったのだ。

しかし、痛々しい傷口を目にして放っておくこともできるはずなく、半ば無理矢理、そいつに手を伸ばした。

あと少し、そういったところで、向こうがしかけてきた攻撃。

伸ばした手は切り付けられて、その痛みに気を取られている間にポケモンは姿を消していた。

点々とついた血の跡を辿って行けば、あるいは追いつけたのかもしれないが、追ったところで触らせてはくれないだろう。

手の甲の痛みも相まって、わしはそれを諦めた。

とりあえず怪我をどうにかしようと鞄を開けるも、一向に消毒液等は見つからない。

ポケモン用のキズぐすり等しか入っていない自分の荷物に、思わず笑ってしまった。

普段から、薬は切らさないよう気を付けてはいるつもりなのだが。

自分が怪我をすることはあまりないから、すっかり油断してしまっていた。

ついてないな。

今日二度目のフレーズを頭に思い浮かべてその場に寝転がる。

青々とした草むらは、柔らかく身体を包んだ。

風が吹くたびに、自然の香りが漂ってくる。

雨、降るかもしれんな。

その匂いにそう感じた。

別段鼻が良いというわけではないが、長い間旅をしてきて、学んだことだ。

微妙な空気の違いを、何時の間にかわかるようになっていた。

雨が降るのを予感したところで、動く気にはなれなかった。

右手の甲は、今もまだじんと鈍い痛みを訴え続けている。

きっと今日は、そういう日なのだ。

投げやりな気分で、いっそこのまま雨に濡れてしまおうと、そんなことを考えていた。


「……アデクさん?」


上から降って来た声に瞼を上げる。

薄く灰色の雲が広がる空を背景に、チェレンがわしを見下ろしていた。

その顔には、困惑の色が浮かんでいる。

「何、してるんですか?」

言いながら、チェレンはわしの横に腰を下ろした。

わしが何かを答える前に、チェレンが右手を掴む。

「、アデクさん、これ」

目ざといな、と、チェレンの驚いた声に思った。

チェレンはさっきのわしのように薬を探そうとしたのだろう。

一度鞄に手をやったが、しかしそれは開く前に下ろされた。

「そうだ、急いでいたから荷物ちゃんと持って来ていなかったんだ……」

そう呟いたチェレンは、自分を責めているようだった。

怪我をしたのはわしの落ち度だし、わしが怪我をすることなど、あらかじめ分かるはずもないのに。

「チェレン」

名を呼んで、チェレンの腕を引く。

右手の痛みは薄れてきてはいたが、力を込めるとそのときだけ鋭い痛みが走った。

ぼすりとチェレンを抱きかかえるようにすると、チェレンは居心地悪そうに小さく呻いた。

「ア、デクさん」

真っ赤な顔のチェレンが視界に入る。

空はいよいよ暗さを増してきていた。

「雨、降りそうだな」

「、あ、そうですよ!それでアデクさんが傘持ってなかったから探しに来たのに」

チェレンがここへ来たのは、どうやら偶然というわけではなかったらしい。

「そうしたら、なんか怪我してるし……早く帰りましょうよ。降って来ちゃいますし、手当てもしないと」

「いい」

「……は?」

「今日わしは、ついておらんのだ。だからこのまま、雨に濡れようと思っていてな」

なんとなく、だ。

もちろんこのまま帰ってもよい。

けれど、なんとなく、ここに居たい気がした。

「……ぼくはどうすればいいんですか」

不満気にチェレンはそう言うが、わしの腕の中から逃れようという気配はない。

「好きにすればよい」

「……はぁ」

返事ともため息とも取れる声を発したチェレンはとっくにどうするかなど決めていたのだろう。

ぽつり、と一粒の水滴がわしの頬を濡らす。

不快なはずの雨でさえ、チェレンがいれば何か良いものに思えた。














2011*05*13





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