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□暗号解読
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週に一度の休みの日。

今日はジムへの挑戦者もいないということで、本当の本当にオフだった。

普段あまり出来ない分、思い思いのことをする。

コーンは読書、ポッドはゲーム、デントは。

と、そこまで考えたところでリビングにデントがいないことに気づく。

いや、一応各自自室はあるのだから、いなくても別に不思議ではないのだが、なんとはなしにいつもリビングに全員でいるものだからすこし変な感じだ。

きょろきょろとしているコーンに気付いたのだろう。

ポッドがコーンを振り返り、そして一拍遅れてコーンの挙動の理由に気づいたらしい。

少し首を傾げて問うて来た。

「……デントは?」

「コーンも今、同じことを思ってたんですけど」

「いやそりゃわかってっけど、」

「じゃあ聞かないでくださいよ」

子供じゃあるまいし、と、そう思いながら返す。

ポッドはそんなコーンをの様子を見て一度驚いたような顔をすると、可笑しそうに吹き出した。

人を馬鹿にするような笑みにイラつきながらなんですか、と問いかければ。

「なに、お前イラついてんの?」

「はぁ?何言ってるんですか⁈」

予想外の答えに思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

イラついてる?コーンが?なんで?

訳がわからない。

「普段ならもーちょい冷静だろ」

「……コーンはいつも通りですよ」

楽しそうに口角をあげながらそう言われて少しむっとした。

ぷいとそっぽを向くと、ポッドは謝るどころか更に爆笑する始末。

腹が立って、ガタリと椅子から立ち上がる。

馬鹿にしてきたのは向こうだし。

一発ぐらい、殴ったって問題はないはずだ。

スタスタと近づいていけば、ポッドはげ、と小さく呟いた。

聞こえてますよ。

「ちょ、コーン、ほんの冗談だろ」

「冗談だろうが本気だろうがムカつくもんはムカつきます!」

そう叫んで拳を振り上げる。

が、と。

勢いよく下ろしたものの、その手はポッドに掴まれた。

あまりにあっさりすぎるものだから、なんだか自分の非力さを感じて。

「もう、なんで止めるんですか!」

「大人しく殴られろっていうのかよ⁈」

「どーせコーンが殴ったってポッドは痛くも痒くもないでしょう⁈」

「いや、少しは痛いから、って、いってええええ‼」

生意気な口をきくポッドの脚を蹴りつける。

そちらの方には全く気を配っていなかったポッドは盛大にその場にうずくまった。

……少しやり過ぎたかもしれない。

流石に脛は痛かったかな。

そんなことを考えていると、後ろからなにしてるの?と。

この家にいるのはコーンたち三人だけだから、その声は必然的に。

「……デント」

「コーン?ポッドどうしたの?」

「さあ?急に脚が痛んだそうで、」

「嘘つくな!」

思わず咄嗟に頭に思いついた理由を口走れば、すかさずポッドに遮られた。

「こいつ、デントがいないからって不機嫌になって俺に八つ当たりしてきたんだよ」

「はぁ⁈それこそ嘘じゃないですか‼」

「そうなの?ごめんね、ちょっと部屋の片付けしてたんだ」

「なんでポッドの方を信じるんですか!……って、それ、なんです?」

叫びながら、ふと見ると、デントが四角い缶を手にしていることに気が付いた。

古びたそれは、ところどころが錆びかけている。

「ほら、僕の部屋って昔はみんなの子供部屋だったでしょう?」

「あぁ」

今でこそ各自に部屋があるけれど、小さい頃は三人同じ部屋で過ごしていた。

部屋を分けられる時も、正直みんな嫌がったものだ。

ずっと三人一緒の部屋がいいと。

まあ、広さの問題でそれはなかなか難しかった訳ですが。

ともかく、今のデントの部屋はその三人の部屋だった。

そして、未だにその頃のおもちゃやらが少しではあるが残っていたりして。

それを片付けていたらしい。

片付けと言っても、別に全部捨てようとかそういうのではなくて、思い出になっているような物は残しているみたいだけれど。

「で、これね。僕には覚えないんだけど……」

デントがそう言いながら缶を開ける。

微妙な音を鳴らして開いたそれの、中に入っていたのは数十枚の紙切れ。

「……あぁ」

思い当たった、と言うように声を上げたのは何時の間にか立ち上がってコーンの横についていたポッド。

コーンも少し記憶に残っているような気がしてはいるのだが、いまいち思い出しきれない。

「そりゃあデントは知らないだろうな」

「どういうこと?」

「だってそれ、俺とコーンでやってた手紙交換だし」

「あぁ‼」

その言葉で思い出す。

そういえば、昔そんなことしていたな。

そんなコーンたちを見て、デントは不服そうな声をあげた。

「ちょっと、なんで僕仲間はずれにしてるのさ」

「いや、多分その頃あれだ、デントばっかり大人に気に入られてるからって」

「悔しくなって二人で二人にしか出来ないような遊びをしてたんですよね」

元々態度があまりよくないポッドに人見知りのコーン。

そんなコーンたちよりも、小さいながらも礼儀正しいデントの方が大人に気に入られるのは、今となっては当然のことと思うのだが。

あの頃のコーンたちはそれがとても嫌で(多分、デントがコーンたちよりも大人と話すのを優先しているように見えてたせいもある)勝手にいじけて二人で遊ぼうとそんな話になったのだった。

「でも、二人にしか出来ないって?僕にも手紙くらい書けるけど」

「中身、見てみろよ」

「いいの?」

どうもデントは一応二つ折りにした紙の中は見ていなかったらしい。

もしかしたら見られて嫌な物かもしれないと考えたんだろう。

ポッドに言われるまま紙を開いたデントは、それを見た瞬間呟いた。

「なにこれ」

そう言うのも当然だ。

そこに書かれていた文字は、到底読めないような物だから。

下手だとか、そういうのではなく、単におかしな形をしているのだ。

「暗号ですから」

「……へぇ……」

「なっつかしーなー」

そう言いながら缶をデントから受け取り漁り出すポッド。

一枚一枚開いては、これはコーンだこれは俺のだなどと呟いている。

暫くすると、ん?と。

その言葉にデントと缶を覗き込めば、そこにはビニール袋に入った封筒。

なんでこれだけ厳重装備……?

と、疑問に思うも、すぐに思い出した。

「それ、そういえばタイムカプセル気分で二人で書いたものじゃないですか?」

そう言ってみれば、ポッドも思い当たったらしく、あぁ、と声を洩らした。

デントは不満気にコーンたちを見つめている。

それはそうだろう。

コーンだって、こんな昔のことでコーン以外の二人だけで盛り上がっていたら嫌に違いない。

あとでお詫びに得意の紅茶を淹れなくてはなりませんね。

ポッドの方は全く気付いていないようで、勝手にビニールを開いている。

赤い封筒がポッドで、青いのがコーン。

わかりやすくしておいた気がするから間違ってはないだろう。

「でも、これじゃ読めないんじゃない?二人とも覚えてるの?」

「そうなんですよね……」

デントの言葉に頷く。

いくらなんでも、そんな昔に作った暗号なんて覚えていない。

コーンですらそうなのだから、ポッドが覚えているはずがないだろう。

そう思ったのだが。

「いや、それなら」

そう言ってポッドは近くの紙とペンを使ってなにやらがりがり書き始めた。

あ、から順番に文字を書いてその下に記号を書いていく。

「え?」

まさか。

「覚えてるんですか⁈ポッドのくせに‼」

「くせにってなんだよ……つーか俺からしたらなんでコーンが忘れてんのか不思議で仕方ねえな」

「何年前のことだと思ってるんですか……」

思わずため息をついてしまう。

デントも驚いたように意外だねえ、と。

……なんかちょっと、悔しい。

コーンが忘れてて、ポッドが覚えているなんて、なんだか。

わけのわからないモヤモヤした感情が自分を包んだ。

それから目を反らすように自分が書いた手紙の内容を思い起こす。

コーンだって、なにもかも忘れてるわけじゃありません。

……なんて、思ってはみたものの、実際どんなに記憶を辿っても、うまく思い起こすことは出来なくて。

うーんと頭を捻っているうちに、先にポッドの表が出来上がってしまった。

「で、これにあてはめる、と」

言いながらポッドは青色……つまりコーンの封筒に手を伸ばした。

「え、ちょっと待って……!なんでコーンのが先なんですか」

「え、いや、なんて書いたか気になるし」

「ポッドの先にしましょうよ!」

「僕も、コーンの気になるけどなぁ」

「デントまで!」

二対一。

不服だけれど、仕方ない。

ここはコーンが折れるしかなさそうだ。

「じゃあいくぞ」

コーンが黙ったのを了承と受け取ったのだろう。

ポッドはそう言うと片手に暗号表、片手にコーンの手紙を持ってそれを読み上げ始めた。

「えーと、『10年後のコーンへ』」

「そういえばそんなコンセプトでしたね……」

実際には10年以上経っているわけですが。

「『元気にやっているでしょうか。まあ、コーンの事だから、病気するなんてありえないでしょうけど』……お前、変わんねえな」

「うるさいです。さっさと先!」

「へいへい『それから、ポッドとデントも、元気でしょうか』」

……微かに、その言葉で、記憶が思い出された。

嫌な予感がだんだんと。

思い出しきれないから、なにも言えないけれど。

「『ポッドは馬鹿だから大丈夫でしょうが、デントは少し心配です。』……なんでここに罵倒が入るんだよ」

「本当の事ですから」

言いながら、ほぼ完全に内容を思い出す。

(え、うわ)

「『最近は、』」

「だめええええええっ‼」

「デント!」

「、っと」

その先を読ませまいと手紙を奪い取ろうとするも、ポッドが一歩下がりデントが後ろからホールドしてきたせいでそれは出来なかった。

流石長年一緒に暮らしてきただけあって、その息はぴったりだ。

「ちょっと、離してください!」

ジタバタと暴れてみるも、デントは離してくれる気配がない。

顔の割に力が強いんですよね……ほんと、三つ子なのになんでコーンだけ力がないんだか。

「『最近は、デントが一緒に遊んでくれなくて少し寂しいです。コーンは、三人一緒がいいです』」

「……コーン」

文章はたどたどしいながらも、その思いは真剣だった。

だからこそ、二人の前で読まれるのが恥ずかしくて仕方ないのですけれど。

「『10年後も、もっともっと後も、ずっと一緒にいたいです。コーンは、』……」

「……ポッド?」

そこでつまるポッドに首を傾げるデント。

コーンはもう内容を思い出してしまいましたから、なぜポッドがそこでつまったのか理解できる。


「『コーンは、二人が大好きです』」


「……うぅ、もう、何書いてんですか……」

躊躇うように読まれた文に顔を覆った。

我ながら恥ずかしすぎる。

「コーン……」

なにか感極まったように呟いたデントは、ホールドした腕を抱き締める形に変えた。

その感覚がむず痒くて、デントの腕を振り払う。

ぱちりと、微妙な顔をしたポッドと目が合った。

「……なんですか」

「あーいや、その」

よくわからない、けれど。

人のもの勝手に読み上げておきながら照れている、らしい。

「〜あーもう!」

一体なんなんですか、心臓がむずむずするような感覚に思わず叫んだ。

もちろん、今だって、二人のことは大好きだし。

ずっと一緒にいたいとも思ってますけど、だからって。

それを素直に外に出せるほど純粋ではもうないのであった。











2011*06*11




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