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□夕焼けはときどき優しい
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さようなら、また明日。

そう言って別れる時がきっと一番嫌いだった。

風丸さんといる時があまりにしあわせすぎるから。


ゆっくり、ゆっくり。

緩やかに流れている景色は僕たちの歩の進みが遅いせい。

いつもは空に靡いている先輩の髪の毛も、今はただふわふわと揺れるだけ。

前は当たり前だった一緒に帰るというこの行為も、今となったら大切すぎる時間だ。

だからかな、心なしか二人とも異様に歩くのが遅くて。

「暑くなってきたな」

夏に差し掛かりかけたこの季節。

帰宅時間になってもじんわり汗ばむ程度には暑かった。

「そうですね、」

ああ、ああ、ああ。

折角の二人きりなのに。

なんでこんな会話なんだか。

ため息をつくのを我慢して、ついと視線を滑らせた。

河川敷。

サッカー部には、ゆかりの深い場所だ。

風丸さんを見れば、彼も同じように河川敷を眺めていた。

きゅうと胸が締め付けられる。

風丸さんが、あまりにもしあわせそうにそこを見ているものだから。

「風丸さん、」

「ん?」

「サッカー部、楽しいですか?」

答えのわかりきった質問を投げかけている自分は一体何がしたいのか。

きっと、少しの望みを未だに捨てていないのだ。

馬鹿だなあと自分で思う。

だって、ほら。

「楽しいよ」

風丸さんの答えはあまりに予想通りで。

ほんのちょっぴり泣きたくなった。

サッカーも、陸上すら。

風丸さんの目を奪うものは全て消えてしまえばいいのにと、頭の隅で考える。

陸上がなければ、風丸さんに出会えなかった。

サッカーをしている時の風丸さんは、どんな時より輝いている。

そんなことも、わかりきっているのに。

「風丸さん、好きです」

「ありがとう」

「やっぱり応えてはくれないんですね」

「はは、」

いつもと同じこの会話をしつこいくらいに続けるのは、応えて欲しいからだけじゃなくて。

少しでも風丸さんの記憶に残っていたいから。

大人になって、ふとした時に、ああ、そういえばこんなやついたな、とか、そのくらいでも構わないんだ。


どちらからともなく足を止めた分かれ道。

じゃあな。はい。

前と変わったことは、また明日と言わなくなったこと。

明日一緒に帰れるかなんてわからない。

むしろ、一緒に帰れる時のほうが珍しいから。

小さくなっていく風丸さんの後ろ姿を見送る。

完全に見えなくなったら、堪らず涙が溢れてきた。

柔らかい夕焼けの色が灰色の地面を照らす。

その色は、僕の胸にじわりと染み込んだ。















2011*06*25



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