メイン6
□ああ、懐かしんでもいけないの
1ページ/1ページ
※十年後捏造+ネタバレ
十年、というのは長いようで短いと思う。
「豪炎寺」
むかしと変わらないトーンで名前を呼ばれて振り向く。
風丸とは、高校卒業を機に同居していた。
中学から、ずっと。
我ながら、よくこんなに関係が続くなと思う。
まあ、これからも俺は風丸のことを好きだし、きっと向こうも俺のことを好きでいてくれるのだろうとも思っているが。
立ち上がり俺の名を呼んだ風丸のそばに行く。
もともと長かった風丸の髪は十年間でいくらか伸びた。
高い位置で結わえていた髪を今は下ろしている。
どちらも好きだが、こっちの方が幾分大人に……というか、綺麗系に見える。
そんなことを考えながらなんとなく彼の髪に触れた。
するりと指をすり抜ける感触が、なんだか心地よい。
「なにしてるんだよ」
「いや、特に意味はないが」
「あ、そ。……こないだ、円堂から電話があったんだけど」
「うん」
「なんか、雷門の監督になったって」
そう言う風丸の表情に、強い感情は読み取れない。
いや、感情を必死に押しころしているように見えた。
「……大変だろうな」
俺も複雑な気持ちを抱きつつ呟く。
今の中学サッカーは、俺たちがしていたそれとは全くの別物だ。
それに憤りを感じながらも、どうすることも出来ない自分が、悔しい。
それは風丸も同じなのだろう。
すこしうつむいた風丸の唇はきつく結ばれていた。
楽しかったあの頃の記憶は、未だ色あせないまま脳髄に残っている。
もちろん辛かったこともある。
けれど、それですら、今となっては幸せだった記憶で。
「今度、行ってみるか?」
「え?」
「雷門。円堂を茶化しにな」
冗談味を交えて言うと、風丸は結んでいた唇をひらいた。
濃く色付いた唇を指でなぞる。
「痛くないのか」
「ああ」
「そうか」
そう言って、そのまま、俺の唇を寄せた。
掠めるだけのキスをしてから、舌で風丸の唇をなぞる。
うっすらと血の味を感じた。
風丸はもっと楽に生きてもいいのだと思う。
必要のないことまで自分で背負って、追い詰めて、傷付いて。
俺は怖いんだ。
そうしていつしかボロボロになってしまうのではないのかと。
俺から、離れてしまうのではないかと、そう考えると。
十年の月日は、依存を形成するのに十分すぎる時だった。
「好きだ」
「ん、」
「風丸は」
「知ってるだろ。言わなくたって」
「それでも」
「……だいすき」
苦笑混じりに微笑んだ彼の顔は、告白した時の彼の表情とよく似ていた。
2011*07*19