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□転調・更に加速する物語
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あの館で過ごしたしあわせな日々は、未だゆるやかに流れ続けているようだった。

一度失った筈のもうひとつの家族との交流は、今でも僕の楽しみだ。

これからもずっと、みんなは特別な存在なんだろうなと思う。

けれど、彼らと会うたびに、ちりと胸の隅を焼けるように痛めつける、後悔。

あの最後の時、僕がもっと何かを言っていれば。

どうせ聞く耳を持ってはくれなかったと、そう思う半面、どうして最後まで足掻かなかったのかと、そんな事をしきりに考えては苦しくなる。

ルカのことは、わすれない、忘れてはいけない。

……それに、僕はまだ、諦めきれていないのだと思う。

僕たちがこちらの世界に戻って来てしまった今、きっとあの館は消えてしまったのだろうと思うけど。

それでも、いつかけろりとした顔で僕たちの前にルカが姿を表してくれるのではないのかと。

そうしたら、そうしたら。

みんなで、謝り合おう。

ルカだって、みんなのことを殺したいわけではなかったはずなんだ。

だけど、思い詰めて、思い詰めて、思い詰めて……道を、誤ってしまった。

僕たちが、彼の苦しみに気付いてあげられなかったから。

もう、間違えない。絶対に。

だから、

「ルカ、」

君も、こっちに来てよ。

ぎゅうと、心臓のあたりを握り締める。

苦しい。

ぽたりと、涙が零れ落ちた。

会いたい。

寂れた公園の静寂の中目を閉じると、あの館の大時計の針の音が耳の奥で響く。

それから、みんなの笑い声。

記憶は少しずつ褪せていっていると、思うけれど、しかし時折、ハッとするような鮮明さで僕の中を通り過ぎる。

それに手を伸ばしたりなんてしない。

ただ、再び胸に刻み付けるのだ。

確かにあそこは現実の空間ではなかったかもしれないけれど、過ごした時間は現実だった。

「レミくん」

彼が、僕の名前を呼んだ。

恋い焦がれているのだろうか。

その声は、酷くはっきりとしていて。

「レミくん」



「…………え?」



時が、止まった気がした。



止めていたのは、自分の息で。

ゆっくりと、振り返る。

そこにいたのは、ルカ。

笑顔の、最後の時とは違う、そう、あの、一緒にゲームをしていたときみたいな、笑顔の、 ルカ。

「やだなあ、そんな顔、見たくなんてないのに」

「、ルカ?」

「ほかの誰かに、見えますか?」

す、と。

ルカが僕の手を取った。

柔らかな暖かさが伝わる。

ああ、本物だ。

「ルカ、」

「はい。……あの、レミくん」

一度目を伏せたルカが、今度は悲しそうな顔で僕を向く。

「ごめんなさい」

「……謝るのは、僕の方だよ」

「レミくんは、何も……僕が勝手に、嫉妬して、」

「それに気付いてあげられなかった。僕の過失だ」

言ってから、何をしているのだろうと思った。

もしもルカに会えたら、こんなことをまず伝えたいんじゃなかったはずだ。

緊張する。

でも、それは、心地の良い緊張で。

僕は、立ち上がった。

それから、ルカの身体を抱き寄せる。

小さく響く心臓の音は僕の物か、それとも、彼のものなのか。

「僕は、ルカが好きだ。」

「レミくん……?」

自分の気持ちを確かめるようにそう告げた。

ルカを失って初めて気づいた。

ルカに対する特別が、ほかの家族に対するそれとは違ったことに。

僕はその感情を恋愛感情だと思った。

本で読んでいたその感情と僕が彼に抱いている感情は、ほとんど一致していたから。

そして今、こうしてみて改めて感じる。

僕は、ルカが、好きだ。

「……伝えられる日がくるなんて、思わなかった」

「僕、は」

ルカの肩が小さく震えているのを感じる。

いきなりこんなことをされたら、確かにちょっと怖いかもしれない。

ショックではあったけれど、当然のことだろうと思って身を離そうとしたのだが。

驚いたことに、ルカは僕の身体にしっかりと腕を回していた。

「レミくん、僕も」

「……えっ」

「すきでした。ずっと……みんなから慕われている君を羨ましく思っていたのも確かですけど……でも」

ルカは、そこで一度言葉を切った。

そして、微かに濡れた瞳でぼくを見る。

「僕自身、レミくんに惹かれていた」

「……」

それは、思いもよらない告白だった。

それって、つまり。

「……は、はは……あはは」

笑いが込み上げる。

なんだ、そんなの、僕たち……馬鹿みたいだ。

「遠回り、しすぎだね」

「そう、ですね」

「とりあえず、さ。みんなに報告に行かなきゃね」

そこで何故かルカは首をかしげた。

ルカが戻ってきたこと。そう続ければああ、とようやく合点がいった様子で。

「なんだと思ったの?」

「いや……だからその……僕たちが両想いだって……言うのかと」

「それも、報告する?」

「えっ、それは……様子見で、お願いします」

そうだね、と僕も返す。

ルカが戻ってきたとなればきっと、それどころじゃないだろうし。

だけど、それでもいい。

どうせまだ時間はたっぷりあるんだから。

(今度はきっとなにも壊れたりしないから)

















2011*08*08

こんな展開はないんですかうっうっ






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