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□上手く丸め込まれたもんだ
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空が白みはじめる。

朝早いのは、苦手だ。

彼もそれを十二分に知っているだろうに、なんでまたこんな時間に呼び出したりするかなあ。

脳内で文句を連ねつつ、とんと地面を蹴る。

約束の時間ぴったり。トウヤはまだ来ない。

別段、イライラもしないけれど。

一応、恋人との逢瀬、ってやつなわけだから、少しは浮かれる気分にはなっていたり、する。

まあ、幼馴染で、家も隣。

会うことが特別なことではないんだけどね。

「あ、チェレーン!待った?」

数メートル先から声を掛けて来るトウヤ。

もぞもぞと身体を動かしている。

どうやら急いで家を出たらしく、着替えもまともにできていないようだ。

ぼくの前で止まったトウヤの額を小突く。

「起きれないんならこんな時間に会う約束するなよ」

「起きれると思ってたの」

むす、と膨れてそう言うトウヤ。

寝起きだからだろうか、なんだかちょっと幼く見えて、なんとなく微笑ましい気分になった。

「それで、何の用?」

「散歩、しようよ」

「……はぁ」

これまた、唐突。

なんでまた、と思ったのが顔に出ていたのだろう、トウヤはぼくの手をそれはもう自然な動作で掬いながら口を開いた。

「最近、デートっても家ん中ばっかだったじゃん?不健康だなーって思って」

そういえば、思い返してみれば確かにそう。

「……でも、なんでこんな早朝?」

繋がれた手を握り返しながら問いかける。

するとトウヤはすうっ、と息を吸って。

だってさ、と。

「朝の空気って、気持ちいーだろ?」

にこっ、と屈託なく笑われてしまえば、もう何も言えなくなってしまう。

元々さして不満もないけれど。

「ま、いいんじゃないの。たまには」

それを素直に認めるのは悔しかったから、そんな言葉で返せばトウヤはくすりと苦笑した。

くい、と微かに手を引かれて歩き出す。

カノコから少し出た草むらを二人で歩く。

そういえばポケモンを連れていないことに思い当たったけれど、トウヤはあんなバタバタしていた状態でもしっかり連れてきているようだったからすぐにどうでもよくなった。

ここら辺のポケモンならトウヤのポケモン一体で倒せるだろう。

「人、全然いないな」

「そりゃあね。こんな早くから活動する奇特な人滅多にいないだろ」

「俺たちが奇特だってーの?」

「うん」

頷いてみせればへえ、とトウヤは呟いた。

それがなんだか妖しげな雰囲気を含んでいて、ぴり、と嫌な予感が背を過る。

気にしないふりをしながらそのまま数歩歩いて、草むらを出たその瞬間。

ぐるりと視界が回転した。

急に腕を引かれたものだから、咄嗟の抵抗も出来ずにその力に流される。

二三度瞬きをして、落ち着いて前を見れば、にんまりと笑ったトウヤの顔。

「……なに?」

首を傾げて訊けば、トウヤは一度口を開いたものの思い直したように口を噤んで、それから。

「、む」

トウヤが一歩近づいた。

元から近かったぼくらの距離は、それでさらに縮まった。

というか。

一歩下がるより前に触れた唇、驚いてトウヤを見れば満足気に笑みを洩らして。

「こういうこと、してみたかったんだよね」

「……は?」

「外でキスとか」

なんだよそれ、そんなことのためにわざわざこんな時間に外出た訳?

言いたい言葉は頭にぐるぐる浮かぶけれど、脳を掻き回すだけに留まっていた。

代わりに出たのはばかじゃないの、という無愛想な言葉。

そんなぼくの言葉をトウヤはさらりと受け流して、もいっかい、とぼくを見つめてきた。

「仕方ないな……」

「満更でもないくせに」

そう呟いてから重なった唇。

自然の香りが微かに香って、ほんの少しの目眩がした。

























2011*08*18



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