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□とんでもないどんでん返し
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ボクたちの恋愛は、なんだかんだ幼いものであると思う。

冗談で、ちょっとえっちい誘惑してみたり、そういうことをすることもあるけど、なんたってヒロくん、奥手だし。

まあ、そんなとこが好きなのだと、言ってしまえばそれまでだけど。



「……それで?」



かなちゃんが小さく首を傾げる。

緩く結わえた髪の毛がふわりと揺れた。

「んー……やっぱさあ、それでも、もーちょっとこう、進展したいなあとか、思ったり……」

「そうは言いましてもねえ」

曖昧に言葉を濁すかなちゃんの言いたいことは、ボクにだって分かる。

進展、って言ったって、もう手繋ぐくらいはとっくにしてて、じゃあ次はキス……というのが出来ないのがボクたちの関係で。

キスをすっ飛ばしてその次……は、うん、興味は多分にあるものの、ボクたちにはまだ早い気がする。

「はあ……結局このままでいるしかないのかなあ」

今だって十分幸せだとは思う。

ヒロくんとかなちゃん、それから眠ちゃんとわいわいやって、たまにはヒロくんと二人きりでデートして。

これまでのことを考えれば、どうしようも無いくらい、幸せで何事もない日常、なのだけれど。


ぽん、と、かなちゃんが手を叩いた。


「つまりすずちゃんは、スリルを求めているわけですね」

「んー……」

「あぁ、スリルっていうと、ちょーっと違いますか。……まあ、つまり、すずちゃんはハカセくんとドキドキしたいと」

あーうん、そうそう。

そう言いながらこくりと頷く。

もちろん今でも、ヒロくんの隣にいればドキドキするし、それはヒロくんだって同じだとは思う。けどなんか物足りない。そういうことなのだ。

「そんなの、簡単ですよ」

ふふん、と得意げにかなちゃんが、声を上げる。

かなちゃんが、どんな提案をしてくるのか、ボクは少しわくわくしながらさっきよりも少しかなちゃんに体を近づけた。

「なになに?」

「思うに、ハカセくんはすずちゃんに甘えてるとこがあるんですよ」

「甘えてる?ヒロくんが、ボクに?……そんなことないと思うけど」

むしろボクの方がヒロくんに甘えているような。

「あー、そういう意味じゃなくてですね。なんというか、自分が何かアクションを起こさなくても、すずちゃんは自分を好きでいてくれる、ってそう思っているんです」

「……まあ、実際そうだしねえ」

「そうだしねえ、じゃないんです!すずちゃんがそういう態度だから、自然と、ハカセくんが受け身の体制になっちゃうわけですよ」

なにやらかなちゃんのスイッチが入ったらしい。

瞳を輝かせながら語りに入るかなちゃんは酷く楽しそうだ。

「だからここは、一旦引いてみる、っていうのはどうでしょう?」

「引いてみる?」

「はい。ハカセくんにそっけなく接してみるんです」

押してダメなら引いてみる、の、引いてみる。

普段ならボクがガンガン行く所を控え目に接することで、ヒロくんの積極性を引き出そう、ということらしい。

「そんな上手くいくかなぁ?」

ヒロくんのことだから、ちょっと引いてみたって、今日はなんかおとなしいなあくらいで終わっちゃうような気がする。

……普段からボクが抱きつくと嫌がったりするし、ラッキーとか思われたりして。




「お待たせ、五十鈴ちゃん、かなめさん」

「!」

と、そこで、掃除が終わったらしいヒロくんがボクたちの元にやってきた。

いつもの癖で思わず抱き着きに行きそうになるが、かなちゃんがボクを小さく呼んだので押し留まった。

「いえ、じゃあ帰りますか」

にこやかにかなちゃんがヒロくんに返す。

ボクは、……引く、というのがどの加減であるか分からなくて結局だんまりを決め込んだ。




「今日はどっか寄ってくの?」

「えっと、今日は……あ、あー、別に、どこも」

アイス屋さん!と即答したい所を我慢してそっけなく答える。

かなちゃんとはさっきの分かれ道でサヨナラした。

今はヒロくんとボクの二人きり。

(うぅー……)

今すぐにでも抱き着きたくてウズウズする。

そっけない態度を取るのって、思ったよりも難しかった。

「そう……何か用事あるの?」

「別に」

「……そう、なんだ」

「ん」

「……」

「……」

会話が途切れて、なんとなく気まずい空気が広がる。

二人分の足音だけが、嫌に耳に響いた。

「……」

「……あの、さ」

その沈黙に耐えきれなくなったのか、ヒロくんが戸惑いがちに口を開く。

「……五十鈴ちゃん、どうか、したの?」

「……別に」

「……えっと……もしかして、体調、悪い?」

「別に」

「……なら、いいんだけど……」

見るからに困ったような顔をして、ヒロくんはそう言った。

…………。


「あー!もうやめやめ!無理だよこんなのっ」


その表情に、ぐらぐら揺れていたボクの心が片方に傾いた。

こんなの、ヒロくんを困らせるばっかりで、なーんにもいいことないじゃんか。

「い、五十鈴ちゃん?」

いきなり叫んだボクをぱちくりと驚いた目で見つめるヒロくんに、今度こそなんの躊躇いもなく抱きついた。

「ごめんねヒロくん……困らせるつもりじゃなかったんだけど、たまにはヒロくんの方からアクション起こしてくれたらなーとか、なんか、いつも通りなのがつまんなくなったっていうか……ああもうとにかく、もういいや、ごめん!」

そう一気にまくし立てる。

「えっと……あの、よくわかんないんだけど、とりあえず五十鈴ちゃんはなんともないんだよね?」

「うんっ、いつも通り超元気だよっ!」

そう返すと、ヒロくんは溜め込んだ何かを吐き出す様に盛大なため息をついた。

「もう……脅かさないでよ。五十鈴ちゃんの体調が悪いのかとか……何か、五十鈴ちゃんを怒らせる様なことしちゃったのかとか……色々、考えちゃったじゃないか」

ふにゃりと頬を緩ませるヒロくんは、本気でボクのことを心配してくれたのだろう。

申し訳ないと思う反面、すごく嬉しく感じる。


「ふふ、」

思わず声を出すと、ヒロくんは少し不機嫌そうな顔をして、なにがおかしいの、と呟いている。

嬉しいんだって、そう伝えると今度は驚いたように頬を染めた。

ころころ変わる表情が面白い。

「はあ……もう、いいけどさ、なんでも」

呆れたようにため息をつくヒロくん。

一歩踏み出したかと思えば、ヒロくんはボクの手を握っていた。

今度はボクのほうがびっくりして。

思わずまじまじとヒロくんを見ると、照れているのか、ヒロくんはそっぽを向いていた。


「……五十鈴ちゃんが、望んでるほどの積極的なことは……ちょっと、今の僕にはまだ、無理だと思うけど」


「え、」


「手繋ぐくらいなら、僕から、するように頑張るから」

たかが、手を繋ぐくらい。

いつもやってるはずなのに、それでも、意識すると恥ずかしいのだろう。

耳まで真っ赤になったヒロくんを、さらにさらに好きになっていくのがわかった。

ヒロくんが、ボクのことを想っていてくれてるのが伝わってきて、どうしようもなく、嬉しい。

「……これで、十分だよ」

ぽつり、呟くと、ヒロくんは笑ったようだった。



















2012*02*24





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