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□あちら側の言い分
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する、りと、ポッドの手のひらがコーンの頬に触れた。

コーンの体温より幾分か暖かい手のひらの感覚に、身体がぴくりと震える。

ぎゅうと、彼の手に自分の手を重ねて感じるその温度差を、煩わしいと思った。

何故ひとつで生まれてこなかったのだろうと、何度も何度も考えた。


同じ血を分かつ意味が分からなかった。

どんなに彼を、彼らを愛おしく思っても、どんなに身体を交えても、僕たちが同じ一個体になることはなく。

三人だからいいのだと、緑色の彼は言った。

ひとつになりたいという気持ちは分からないでもないけれど、と。

ひとりなんてつまらないだろ、と、赤色の彼は言った。

目の前で、こんなにも愛おしそうにコーンの肌を撫でるのに、離すまいと抱きしめてくれることだってあるのにそれでも、ひとつでなくてよかったと彼は言う。

どちらの気持ちも分かる。

それでも僕は、ひとつで生まれてきたかったと切に思った。

兄弟を愛することは、ほんとうはいけないことだって、幼い頃から分かっていた。

それでもどうしようもなく惹かれてしまうのはもう、運命だとか、そういう言葉でしか表せない。

周りなんて気にしなくていいよ、と示し合わせたものの、拭いきれない罪悪感と背徳感。

つらいことが、一度もなかったと言ったら、それは絶対に嘘になる。

だったらいっそのこと、ひとつで生まれてきたかった。

ほんとうはひとつであるべきだったんだ、だからこんなにも惹かれ合う。

それぞれ、ひとりじゃ不十分だから。本当は、三人がおなじものであったから。

「、ポッド」

もしもひとつで生まれてきたなら、名前はどうなっていたんだろう。

そんなことを片隅で考えながら、彼の名前を呼んだ。

触れ合った肌の温度差は次第に小さくなってゆく。

心地いい。

そこだけでも、彼と一体化したような、そんな感覚が、とても。

するりと彼の指が僕の前髪を掻き上げた。

右目の視界がひらく。

部屋は薄暗いけれど、少し眩しく感じた。

「コーン、また、怖え目してるぞ」

「そうですか?」

「ああ、なんか、うん。……食われそう」

苦笑を交えてそう言ったポッドの言葉に、それもいいね、と返した。

「……なにが、いいんだよ」

「だって、食べたらひとつのものになれるでしょう」

ちょっとだけ、ポッドを食べる想像をしてみた。

きっと美味しくはないだろう。それでも、ばり、ばり、ばり。

骨って食べれるのだろうか。どうせ食べるのなら、隅々まで自分のものにしなければ意味がない。

想像したらなんだか笑えてきた。

ありえない空想ほど、馬鹿馬鹿しいものはない。

くすくす、と声を漏らしていると、ポッドの眉根が寄った。

「……冗談じゃねえ」

その声は、低く震える。

恐怖しているようにも聞こえた。

怖がっているんだとしたら、それはきっと、僕に食べられることではない。

二人が離れ離れになるということ。

死んでしまったら彼はもうコーンに会うことは出来ない。

それがきっと、こわいのだ。

コーンからしたら、今のこの状態のほうが、引き裂かれる可能性を感じて恐ろしいのだけど。

「お前は、変だよ」

「そんなこと……わかってますよ」

自分の中で蠢く狂気が、普通でないことくらい、痛いくらいに自分でわかる。

わかったところで、それはどうしようも出来ないじゃないか。

不穏な気を孕む感情は、どうしたって本物で。

そしてそれを受け入れてくれているのは、受け入れて、しまっているのは……僕だけじゃないから。

「変だから、何?嫌いになりますか、コーンのこと」

「……お前は、ずるいな」

答えなんて、判り切ってるくせに。

吐き捨てるように言われた言葉に口角が上がる。

僕たちは、何があったってお互いを嫌いになんてなれない。そういう確信。

歪んだ関係は死ぬまで続くのだろう。

三人一緒にしねたら、いいのに。

人は死ぬときは一人だ。どうしたって。どんなに近くにいたって。

それが、どうしようもなく寂しくて、悔しい。

ポッドの首筋に思い切り噛り付いた。

「ッ……!」

ポッドは声にならない悲鳴を上げる。

口内に血の味が拡がった。

ポッドの一部が、コーンの身体の中に流れる。

込み上げる幸福感と、血の味に対する拒絶。

相反する感情は微かに、確かに、嬉しさの方が勝っているようだった。

「……痛えよ、馬鹿」

「あはは、ごめんなさい」

笑みを浮かべながら謝れば、ポッドの気に触ったらしく今度はポッドが、僕の首筋に噛み付いてきた。

でも、それはコーンが彼にしたようなものではない。

ただ、吸い上げるだけ。

ぞくりと、快感が身体を走った。

彼の唇が触れたところには、赤い鬱血が浮き上がっていることだろう。

「……っ、」

じんわりと身体が熱を持ち始めたのがわかった。

その様子を見たポッドは、薄っすらと口角を上げる。

その表情は……きっと、僕自身がさっきしていたのと、とても似ている。

触れ合う唇。

二人分の熱が、混ざり合って溶けていくようだった。
















2012*02*25





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