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□笑いかけるなんて卑怯だ
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今、この世界で。
俺以上に疲れてる人って、そうそういないんじゃないかな、とそう思わざるを得ないほど、俺は疲れていた。
「……なんであいつあんな元気なんだよ」
あのちっさい体のどこに蓄えられていたのだろうと思うぐらい、あきらはすばしっこかった。
体育のときもあのぐらい動いてくれりゃあいいのに。
あの動きが俺から逃げるためのものだと思うと、こう……へこむ、わけで。
「〜〜はぁー……」
「おやおや、お疲れですね」
苦笑しながら声をかけてきたのは委員長。
俺はもう作り笑いをする気力すらなく、しゃがみこんだまま答える。
「疲れるよそりゃあ」
「昼休み殆んどずっと走り回ってましたもんねー。でも珍しいですね、あきらくんいつもならすぐに晃一くんのこと許してるような気がしますけど」
「そうなんだよなー……あいつ、ほんっ、たかが菓子ぐらいで……」
「あぁ、おか……え?原因お菓子ですか?!」
委員長は驚いたように俺を見る。
それはそうだ。
まさか三十分程走り回っていた原因がお菓子だなんて思いもよらなかったんだろう。
「まぁ、珍しくあきらが自分で買ってたし、あきらが大好きな菓子なのも知ってたけどさー」
「……はぁ」
「普段あんだけ奢ってやってんだから、少しぐらいいいと思うじゃ……」
言いながら顔を上げると、教室の扉から顔を覗かせたあきらと目が合った。
もしかしたら謝りに来てくれたのかな、と思ったのも束の間。
あきらはベーっと舌を出して駆け出した。
「……あいつ……!!」
流石の俺もこれにはイラッときた。
あきらが遠くに行かないうちに、と立ち上がって走り出す。
後ろで委員長が呆れたような苦笑を浮かべていたが、比較的いつものことなのでそちらはとりあえず無視。
後でちゃんと謝ることにしよう。
俺たちの追いかけっこの舞台は、いつの間にか外になっていた。
なんかもう、あきらが怒っているというより単に逃げるのを楽しんでいるとしか思えない。
「……あきらっ!!」
そろそろ体力が尽き果てそうなところで、あきらを呼ぶ。
振り向きかけたその一瞬の間にあきらを捕獲する。
「あっ!!こーちゃんせこ!!」
「せこじゃねぇよ何十分も走らせやがってこの馬鹿……!!」
ぜーはーと息をする俺を見て、あきらは人を馬鹿にするような顔で笑った。
「こーちゃんももう年だね」
「いや、同い年ですけど」
ポンと頭に乗せられた手を退ける。
「で、あきらお前そんなに嫌だったわけ?」
「…………あー!!そうだよ!!僕こーちゃんに怒ってたんじゃん」
数秒フリーズしたかと思えば、頬を膨らませながらそんなことを言うものだから、俺は唖然としてしまう。
つまり、あきらは怒ってたのを忘れていながらずっと逃げ回っていたわけだ。
あぁもう……なんて無駄な時間を過ごしたんだろう。
あきらと言うより自分に対して嫌悪を抱いていると、あきらが急にくすくす笑い出した。
「あははっ」
「……なに」
「楽しかったなぁって」
にこにこしたあきらに顔を覗き込んでそう言われて、思わず言葉につまる。
本当に疲れたんだけど、でも。
こうしてあきらが楽しそうな顔をしていると、それすら無意味でなかったような気がしてくるから不思議だ。
「ね?こーちゃんも楽しかった?」
「……あぁ」
確かめるように言われれば、ため息と共に肯定の言葉も出てしまった。
甘やかし過ぎの自覚はあるのだけれど。
なかなかこれは治らないものなのだ。
タイトルはM.I様より。
2010*12*13
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